【連載小説】もし、未来が変えられるなら『8話』
時系列はまた前後する。入院生活で、食事が怖かったように、入院する前も家族との食事が怖かった。夕食前、父親や母親が料理をしている。でも僕はその光景が怖くた見れなかった。聞こえてくる音だけ聞いていても、母親が自らの腕を切って料理をしているような想像が頭をめぐる。
「バリバリ……ガリガリ……ギギギギギ……」
聞こえてくる音はいかにも奇怪だ。僕は思わず耳を塞ぎたくなった。そのうち食卓に料理が並ぶが、そんな想像をした料理を見て食欲はそそられない。
いただきますをする。そうすると食卓に緊張が走る。両親は僕に怯えているようだ。静かに皆、食べ始める。できるだけ音を立てないように。皆、震えながら食べている。まるで音を立てるのがダメかのように。でも違うのだ。恐れているのは音じゃない。皆、同じ動きになってしまうことを恐れている。僕がおかずを食べようとすると、父親も釣られるようにおかずを食べる。それに気づいた父親は、僕と動きが一緒になってしまうことをひどく恐れているかのように、震えてフォークをテーブルに落とした。音を立てないようにしていたからか、その音がやけに大きく響く。それを聞いて母親もビクッとする。これが永遠と繰り返されるような食事の時間が、震え上がるほど恐ろしかった。
なぎと出かけてから、僕はなぎに会えていなかった。ふと寂しくなって、なぎに塩おむすびのお礼のLINEを送った。数時間して、なぎはそのことには一切触れずに
『寝るのが怖い』と送ってきた。
『話を聞くよ』と僕は送った。するとなぎから電話がかかってきた。
なぎは電話をかけても話さない。その代わりにLINEで文を打ってくる。
『まだ寝ないで』
僕はそれに電話で直接答える。
「うん、寝ないよ」
『星を見たいの』
「星が好きなの?」
『うん、星座が好き』
「ベランダに出てみようかな?」
『私はもう出てる』
「わぁ! 綺麗だ! 久しぶりに星を見た」
『私はいつも見てる』
『オリオン座見える?』
「見えるよ」
『好きな星座』
『ベテルギウスとリゲル。わかる?』
「わからない。なぎは詳しいね」
『好きなだけ』
そんな会話をしながら夜空を見上げていた。なぎはそのうち部屋に入ってベッドに寝転んだようだ。それを聞いて僕も部屋に入る。
『電話を切らないで』
「わかった。切らないよ」
そのまま僕は寝てしまった。朝になって、スマホの向こうからアラームが聞こえた。僕のではない。電話越しになぎがかけたアラームが、聞こえているようだ。あのまま電話を繋いだまま、寝てしまったようだ。多分、僕が先に寝ただろう。寝息が聞こえ始めたら切ればいいのに、なぎは本当に切らなかったようだ。でも、なぜか、それが嬉しかった。ずっとアラームが鳴り止まなかったのに、やっと切れた。なぎが起きたようだ。するとなぎは何も言わずに電話を切った。静寂が部屋を包み込む。僕もそのまま静寂に包まれてしまったかのように、ぼーっと静かにいつまでもベッドに寝転んでいた。