【連載小説】もし、未来が変えられるなら『12話』
次の日も、僕たちはデイケアにいた。いつものように絵を描いて、昼食を食べ、午後から、なんとなく2人で外に出た。デイケアの前の道を2人で歩く。何もない一本道だ。もう息も白くなる季節だった。気温が刺すように肌に牙を剝く。少し歩くと、右の坂の上に向けて石段があるのがわかった。僕となぎは吸い込まれるように、その石段を登った。上り切ると小さな社みたいなものがあった。それ以外は生い茂った背の高い草しかなかった。その社の前で、なんとはなく2人で座る。他に誰もいない吐いた息遣いも大きく聞こえるような静かな場所だった。誰も来そうにない。虫の鳴き声も聞こえなかった。
それまで僕は、愛着障害のなぎに気を遣って接していた。でもその時はタガが外れてしまっていた。気づいたら僕はなぎにキスをしていた。なぎは嫌がらなかった。そのまま何時間もキスをしていた気がする。時間がだいぶすぎていることに気づいて、その場から立ち上がった。なぎもつられて立ち上がるが、へにゃへにゃと、足に力が入らないみたいで、また座り込んだ。デイケアに帰ると帰りが遅くて職員に怒られた。僕たちは何事もなっかったかのように、笑って誤魔化した。
そこから何日かは、なぎはいつも通りだった。でも、だんだんいつもより、やり取りするLINEの内容がキツくなり、ある日を境に連絡が取れなくなった。
なぎはキスが受け入れられなかったのだろう。他に思い当たることはなかった。僕はあの時の自分が許せなかった。何度も何度も自分がしたことを悔やんだ。でもなぎは戻ってこなかった。
それから二年経っていた。僕のSNSのアカウントに知らない人から、DMが来ていた。
『あの時はごめんなさい。言い過ぎました』
なんのことかわからない。そもそも誰なんだろう。僕は『どちら様でしょう?』と返した。それには触れずに、また謝り続けている。何通かやりとりしたが、心当たりがないので、プロフィールを見てみることにした。それでもわからない。呟いている内容を流し見して、やっとそれがなぎだと気づいた。
気づいて、なんでなぎが謝る必要があるのだろう、謝るのは僕のほうだと思って、謝りのDMを慌てて送った。なぎは『いいよ』とも『許さない』とも言わなかった。その後も何通かやりとりをして、いつの間にか会う約束をしていた。
なんでなぎは今頃になって、連絡して来たのだろうと深く考えた。でもその時は、わからなかった。よりを戻したいのかもとさえ思っていた。でも今ならわかる。なぎがどういう思いだったのかを。
でも全部意味のないことだ。この未来なら、尚更。嫌気がさすくらい自分が情けなくて仕方がなかった。僕は僕が嫌いだ。