61. 和製フレンチテクノポップ、あるいは早すぎた渋谷系は秋元康プロデュースだった:早瀬優香子のベストアルバム『Yew we’re SINGLES+8』
先日、「フレンチポップ×テクノ=お洒落:『Mikado forever』」というタイトルでフレンチテクノポップグループ「Mikado」のベストアルバムを紹介したところ、私の記事としてはまずますの「いいね」をいただいた。で、この雰囲気、日本でも似たようなものがあったな、と思い出したのが、早瀬優香子氏のスマッシュヒットシングル「サルトルで眠れない」(1986年)であった。それが収録されているのは同年発売の彼女のアルバム『躁鬱 SO・UTSU』であるが、今回は彼女の軌跡を紹介するという意味でも2020年に発売されたベストアルバム『Yew we’re SINGLES+8』を紹介したい。「+8」とあるようにもともとは1988年に発売されていたベストアルバム『Yew we’re SINGLES』にさらに8曲追加されたお得版である。これが2020年にリマスターされて発売されたという事実からも、その魅力が今、改めて再評価されていることが分かるだろう。
早瀬優香子氏、と言われてもピンとこない人が多いと思うが、 高木美保氏主演の昼ドラ『華の嵐』(1988年)でのヒロインの妹役の「琴子様」と言えばある程度の年代の方なら、「ああ、あの美しい人ね」と思い起こすであろう。その後1991年には若松孝二監督作品の『キスより簡単』(原作は石坂啓氏の名作漫画)で主演もしている女優さんであるが(しかし若松映画としては評価はイマイチではある)、ここに来て改めて歌手としての再評価が高まっていると言えよう。そう、歌手としては、やっていることが早すぎたのである。このベストアルバムに収録されている歌を改めて聞くと、たしかに当時のアイドル路線的な歌もあるが、今聞いても古くないというか、今だからこそ理解されるタイプの歌も少なくない。
しかも、というかそしてというか、歌手としての彼女をプロデュースしていたのはあの秋元康氏である。秋元氏=アイドル、というイメージがあるが、あの美空ひばりの名曲、「川の流れのように」も作詞しているように、この方、実は非常に守備範囲の広い方でもある。時代的にもMikadoの活躍時期と重なり、当然流行に敏感な彼はMikadoをある程度は意識していたであろう。日本で現代版のフレンチポップを、というアイデアが先にあったのか、早瀬優香子氏という存在が先にあったのかは分からないが、この組み合わせは最高にマッチしている。後に。UAやカヒミ・カリィが、彼女の歌に影響を受けたことを話しているが、そのような「アーティスト」に間接的に影響を与えていたのが一般的には「アイドル」が専門とされる秋元氏であったというのは非常に興味深い事実である。
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