19. ブライアン・イーノの1975年当時の「もう一つのみずみずしい世界」としての『アナザー・グリーン・ワールド』
さて、予告通り、今回はブライアン・イーノの転機にしてその後の方向性を決定づけたとも言える名盤『アナザー・グリーン・ワールド』をご紹介します。
同じブライアンでもブライアン・フェリー率いる「ロキシー・ミュージック」のメンバーとしてロックシーンで活躍していたブライアン・イーノですが、その後のイメージを決定づけることになった方向転換というか転機としてのアルバムがこの『アナザー・グリーン・ワールド』(1975年)であることに異論を唱える人はいないでしょう。同様の音楽性、方向性としては前回紹介したメビウスなどが挙げられますが、やはりドイツの音楽シーンは当時としてはマイナーだったので、イギリスで、かつロックの人というイメージが強かったブライアン・イーノがこのようなアルバムをだしたことは衝撃を持って世界に受け止められたのでしょう。前回「スケッチ的」という言い方をしましたが、多くの作品が長さ的にも、音楽の展開的にも「小品」であり、1曲というよりは曲の一部という感は否めません。しかしだからこそこれは大いなる実験と思われたのかもしれません。そしてその実験的であることが功を奏したとも言えます。
しかし、イーノ=アンビエントというイメージが強い今だからこそ、我々はこのアルバムをいわゆるアンビエントのアルバムとして聞いてしまうのではないでしょうか。今聞き直すと、まだまだロックテイストを強く残した作品もありますし、フォークソング的な雰囲気のものもあります。つまり、イーノがやりたかったのは、アンビエントを目指すというよりも、音楽そのものを見つめ直す、ということだったのではないでしょうか。『アナザー・グリーン・ワールド』というタイトル通り、一度自分自身をリセットし直すことでもう一つの新しい世界を見つけ出すこと、、それがこのアルバムの制作を通してやりたかったのではないかと思われます。
「アナザー・ワールド」という意味で言えば、おそらくロックという枠をイーノは越えたかったのでしょう。ロックという「枠」に縛られたく/囚われたくなかったのでしょう。そしてそう考えると、今のアンビエントという「枠」をイーノ自身がどう考えているのか気になります。恐らくイーノ自身にはそのような「枠」の意識はないのではないでしょう。もしかしたら「音楽」という「枠」の意識さえないのかもしれません。イーノがこだわっているのは「音」であって「音楽」でさえないのかもしれません。しかし、聞いている我々は、「ああ、やっぱりこれはイーノだな」と思って聞いてしまいます。つまりは「枠」を設定してしまっているということです。このような現状についてイーノ自身はどう考え、どう対応しているのでしょうか。
と、そんなことをも考えさせられてしまうアルバム、それがこの『アナザー・グリーン・ワールド』です。ロックやアンビエントと言ったジャンル好きではなくすべての音楽好き、音好きの方にお薦めの1枚です。