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33. 音楽作家としてのジョージ・ハリソン魅力と方向性:『不思議の壁』(1968年)
前回、ユニット「Asid Mothers Temple」を論じた時に「インド的」でありそれが「ビートルズ的」でもあると述べたが、正確に言えば「インド的」=「ジョージ・ハリスン的」である。
ポップスターであるジョン&ポールの影に隠れてしまい、ビートルズメンバー的には目立たない存在であるジョージであるが、その音楽性は確かにポップではないが、ポップではないが故に、その「音」その「音楽」は、ある意味他のメンバーを凌駕していたと言えよう。事実、ビートルズメンバーで一番最初にソロアルバムを出したのがジョージであり、しかもそれは「不思議の壁」という映画のサウンドトラックである。
映画音楽、つまりそれは曲として独立していなくていい、つまりはポップソングとして流通しなくていい、というものである。そして、そこでこそジョージの音楽作家としての力量は最大限に発揮される。あくまでポップソングであることにこだわるポールと、あのヨーコ・オノを見出した(というか見初めた?)ことがまさにそうであるように「前衛」方面にも傾倒していたジョンであるが、ジョンの興味が「カルチャー」としての「前衛」にあったのに対し、ジョージは「音楽」そのもの「音の響き」そのものに興味があったと言えよう。だからこそ、即ちこのように音楽性や方向性が違っていた個性が集まっていたからこそ、ビートルズは伝説のバントとなり得たのであるが、しかし、だからこそ、バンド(=結束体)としてやっていくことが難しくなってきたのも事実であろう。バンドではなくユニット(=単位体)という形が自由にできるようになった現在とは違い、当時はやはりバンドにはバンドであることが求められていた。しかし、ビートルズはそうではなかった。よって解散という結果になるのであるが、しかし、ジョンの死さえなければ当然ユニット的にまた集まることもあったであろう。事実、4人全員ではなくてもいくつかの組み合わせ(ユニット)はその後、実現しているのだから。
さて話を本題に戻すと、この『不思議の壁』、サントラ扱いとしてはもったいないとの判断であろう、今となってはジョージのソロアルバムという位置づけとなっている。そして改めて聞くととにかく、スゴイ。そしてカッコいい。ギタリストとして、そしてシタール奏者としてのジョージの魅力が、がっしりと詰まっている。西洋的な視点から見れば、ジョージはギターをシタール的に引いた最初の人物であり、またインド的、あるいはさらに拡大すればオリエンタル的な視点から言えば、ジョージは初めてシタールをギター的に弾いた人物である。しかし、それは決して今で言う「文化の盗用」などではない。むしろ「文化の登用」である。「盗用」と「登用」にどこに違いがあるかと言うとそれはそこにレスペクトの精神があるか否かという点である。その意味で、まさ西洋にアジアを、アジアに西洋を「登用」させたのがジョージであり、このアルバムであると言えよう。そしてその範囲はもはやインドだけには収まらないし、今の時代に改めて聞くと、時代さえも超越している。
とにかく名作にして傑作である。是非お聴きいただきたい。