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17. 『幻星』からさらに13年、ポップカルチャーとしての完成形としてのテクノロックアルバム『ZERO SET』

前回紹介した『クラスターⅡ 幻星』(1969年)がある種の実験のスタートだったとしたら、その一つの完成形、ポップカルチャーとしての完成形がメビウス、プランク、ノイマイヤーによるこの『ZERO SET』(1983年)と言えるでしょう。

この間に、同じドイツではクラフトワークの『アウトバーン』(1974年)、さらにイギリスではブライアン・イーノの『Another Green World』(1975年)があり、いわゆる前衛としてではなく、ポップソング、ポップカルチャーとしてテクノ、ミニマル、アンビエントのジャンルが定着してきたのですが、(そして日本ではYMOが1979年にデビュー)、それらの流れを踏まえた上で、クラスター、ハルモニアといった活動を経てきたメビウスが、そのクラフトワーク、ブライアン・イーノのプロデューサーでもあったコニー・プランク、そしてフリージャズのドラマーでもあるマニ・ノイマイヤーと組んで作り上げたのがこの『ZERO SET』です。恐らく「売れる」のを狙ったのでしょう。そして見事にその目的を達成させています。

しかし、このアルバム、確かにポップで売れるアルバムではありますが、決してそれだけに納まるものでもありません。ポップで売れるだけであれば、メビウスとプランクだけの組み合わせでいいでしょう。しかし、そこにジャズの人でありロックの人であり、アバンギャルドの人であるノイマイヤーが加わったことで(というかメビウスもプランクもアバンギャルドの人ですが)このアルバムはいわゆる「売れ線」ではなくなります。しかし繰り返しますがだからこそ売れたと言えるでしょう。YMOも当初はそうでしたが、当時のテクノ、特にポップ寄りのテクノはどうしてもいわゆる「軽い音」というイメージがあったと思います。しかし、それをノイマイヤーを取り込むことでクリアしています(YMOのライブに渡辺香津美や高中正義が参加していたように)。ポップに前衛を取り入れること、あるいは前衛にポップを取り入れることで重みと厚みが出てきます。ポップとは、ポップカルチャーとは決して「軽い」という意味ではありません。軽さを身にまとっているだけです。そのことは歴史に残るポップソングの数々が証明していますし、このアルバムもその一つです。だからこそ今でも名盤として語り継がれているのでしょう。

とにかくお薦めです!

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