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「とてもじゃないですが『仕事行きなさい』って言える状態じゃないですねえ」って、

 かかりつけの医者は言った。
「そうすか…」
答える。足元に視線を落とす。オールスターのトゥキャップが汚れてんな、てなことを考えつつどうしたものかと迷ったが結局は診断書をしたためていただき、一昨日から休職とあいなったわけだ、実に3年5ヵ月ぶり2回目。

…2回目があったか。ないとは思っていなかったが。正直、前回から3年半近く保ったのはまあ頑張ったほうだと、よくやったと、えらいぞと、自分の中の自分の頭を撫でてやった。

 某駅のルノアールで総務人事の担当と待ち合わせをして診断書を渡し、アイスコーヒーを飲みながら話をした。ここ一年で何人目なんだ、ついこの間同僚が休職に追い込まれた話をここに書いた気がするぞ、と思いつつ、関係あろうがなかろうが片足突っ込んでいようが小指の先がひっかかっていようが「なんとなく」Cc. にぶち込まれるおかげで毎日毎日ドカドカ飛んできたメールがぱったり止まったな、などと思っていたが、2週間後には完全に社用ケータイもメールもシャットダウンされるらしい。徹底してる。1回目のときはそこまでやらなかった。徹底してますね、と言うと担当の女性は、そうです、徹底して仕事から離れて休んでいただくんです、とこともなげに言った。

 別れたあとそのまま新宿へ出て『シン・エヴァ』を観て、書店でヤマシタトモコの『違国日記』を買った。毎日毎日毎日毎日口に合わない猛烈に苦いコーヒーを飲まされるような感覚で仕事をしていたせいか、底無しの孤独を満たそうとする碇ゲンドウの気持ちも、女王がひとり、村人ひとりの強固な帝国を守ろうとする槙生のあがきも沁みる、染み渡るのを待たずに溢れ出す。

 とりあえず。少し自由になった。放っておけば勝手に暗い方へ深い方へ、底知れぬ淵目掛けてダイブしてもがきだす自分であることはわかっているから、少しだけ。とりあえず少しだけこのささやかな自由を控えめに謳歌しようと思う。「控えめな謳歌」なんてものがあるとするならば。

 そろそろ素足でオールスターを履く気温だ。今日通りかかった商店街のABCマートでローカットの新しいのを買おう。サイズはデカめに、紐は緩めに、踵を踏んづけて、歩いてみよう。

 俺は俺を守ったんだから。踏み出す一歩の幅を自分で決める自由くらい、ご褒美によこしてくれ。

#日記 #休職 #シンエヴァンゲリオン #違国日記 #庵野秀明 #ヤマシタトモコ #コンバース

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