連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十八話 葛藤と積み重ねられる嘘
「あれ、まだ帰ってなかったんだ」
関谷が滝川たちを見つける。
「おお、関谷じゃん」
挨拶すると同時に
「滝川先輩、先に帰りますね」
気まずい状況を切り上げるように花森が早歩きで教室を出ていく。
「あっ」
止めなきゃいけないのに行動にできず、そのまま立ち尽くす滝川。
「花森さんと何かあった?」
「いや、何でもないよ」
誤魔化すように関谷の方を向いて否定する。
「ここで会えたのも偶然だし、久しぶりに一緒に帰ろうぜ」
「おお、帰ろう」
辺りを見回してから、ドアを丁寧に閉めて教室を出る。
関谷と滝川の帰り道は学校近くの最寄り駅までは同じだが、そこから先は反対方向だ。
「それにしても部活ない日なのに、早く帰らなかったんだ」
「ああ、たまにはそんな気分になる時、あってもいいだろ」
周りの騒がしい街並みを眺めながら歩く。
「関谷ってさ、めちゃくちゃツイートするよね、Twitter」
「あ、読んでるんだ。まあ、ほとんどバスケのことばっかりだからつまらないよな」
「いやいや、良いと思うよ。関谷らしくて。特にこのツイートとか」
目当てのツイートを画面をスクロールして探して見せる。
ー今日は、他校のバスケ部と練習試合!
そうそう、さっき、他校の女子マネから
『彼女いるんですか』
って話しかけられた⭐︎ー
それを見た関谷はちょっと顔をしかめたかと思えば、いつも通り
「ああ、俺ってモテるから困るなあ」
自慢げな顔で堂々と言う。
(なんで今なんだよ・・・)
そう言いたくなる気持ちをグッと堪える。
「相変わらずだよね、そのモテっぷり」
冗談まじりに腕を軽くツンツンする。それを笑って受け止める関谷。
「羨ましいだろ〜。滝川は俺とは反対にあまりツイートしないよな」
「なんか、苦手なんだよね、自分のこと書くの。
何書いていいかわからないし」
腕を組んでそう言う。
「まあ、滝川はそういうの苦手だもんな」
うんうんと何回も頷く。そんな話をしていたら、あっという間に水標駅に着いた。
「じゃ、またな」
お互いにそう交わして、滝川の姿を見送った関谷は近くに転がっている空き缶を軽く蹴飛ばす。
「いつの間にか嘘をつくのが上手になったな・・・。これで良いんだ」
拳を胸に当ててシャツをギュッと締め付ける。そのせいか胸が締め付けられるように痛い。
でも、それは今だけの感情でいつかは消えてしまうものだと思いながら
(大丈夫)
一瞬、微笑んでから歩き始める。空き缶が蹴飛ばされたその先にある小さな花に気づくことなく・・・。
放課後になると同時に教室を出て、緊張した面持ちで応接室の前に立っている佐渡。
「はあ・・・。なかなか呼ばれることないし、何かしたかなあ」
思い当たることを必死に思い浮かべようとするが、何も浮かばない。大きな深呼吸を一つしてドアノブに手をかける。
「失礼します」
「おお、来たか」
顔を上げるとそこに立っていたのは、片山先生と少し若めの男性が立っている。
「何か・・・」
そう言いかけた時
「君が佐渡君か!」
目を輝かせながら近づいてくる男性。
「私は青藍高校の男子バスケ部で監督をやってる松永です。佐渡君に会えて嬉しいよ」
「青藍高校!?いや、でも何故僕のところへ」
「単刀直入にいうと、君を青藍高校男子バスケ部にスカウトしたい」
信じられない話が飛び出す。その隣で片山先生が
「光栄なことじゃないか」
満面の笑みをしている。
「本当に、僕でいいんですか」
現実なのか確かめたくなって改めて聞く。
「ああ、佐渡君の持ち味のパスがあれば、我が校はもっと強くなれる」
はっきりとそう告げる。その一言を聞いて、現実だとようやく悟り、ガッツポーズをする。
「ありがとうございます」
勢いよくお礼を言う。その後、軽く松永監督と今後のことについて話をしてから応接室を出る。それと同時に
(そういや、関谷も誘われてるのかな)
ふと気になって関谷にLINEを送る。
ー青藍高校って知ってる?ー
たった一言だけ、そう送った。すると
ーーーピロリンーーーー
通知音がすぐ鳴り、
ー高校ベスト4の高校じゃん、何かあった?ー
全く何も知らないような素振りの返事に
(関谷、誘われてないんだ)
落胆したような気持ちになるも、少しの優越感からかにやける佐渡。そのままスマホの電源を切ろうとした時に、また通知音が鳴る。
ー佐渡先輩、放送委員会って、次はいつの予定だったか覚えてますかー
後輩で同じ放送委員の百合からLINEが届いた。それに
ーお疲れ!次は来週水曜日の放課後にあるよー
すぐ返事をして、関谷とのLINE画面に戻る。スカウトされたことを伝えようと、指先を伸ばすが
(関谷には言わないでおくか)
心に決めて手をとめ、画面を一旦切って廊下をスキップしながら帰り道につく。
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