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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十七話 表と裏

 教室に入ると、クラスの男子が関谷の机を囲むように話している。

「おはよ」

クラスメイトたちに一声かけると

「お、関谷。おはよ」

口々に挨拶が飛び交う。

「関谷って、彼女いたことある?」

隣の席のクラスメイトに聞かれる。突然の質問に一瞬、反応が遅れる関谷。

「え?いきなりどうしたんだよ」

「実はさ、関谷と付き合いたいって後輩の生徒がいてさ」

スマホに保存してある一枚の集合写真を見せる。

「この子なんだけど」

指差しした一人の女子生徒。メガネをかけていて可愛い系の子だ。

「普通に見ても可愛いと思うよな」

その言葉に俺はすぐ答えることはできずにいたが、

「確かに可愛い子だな、付き合うのはちょっと考えたいかなー」

どっちにもとれるような返事を返す。

「そっか。そう伝えとく」

少しがっかりしたような表情をみせる。それを聞くと時計に目をやってからトイレに向かう関谷。トイレは誰もいないようで静まりかえっている。

https://onl.la/C36BWfr


「“彼女”か。何度も言われ慣れてるけど・・・」

愛想笑いを浮かべるが、その顔は少し引きつっている。鏡の前でそんな自分の顔を見つめる。

ーーーブルルルッーーー

ポケットにしまってあるスマホが小さく揺れる。それに気づき、スマホを取り出し、LINEに返事してからTwitterを開いて、すごい勢いで文字を打ち込んでいく。

「よし、完了」

一息ついてツイートのボタンをクリックする。

数秒後、プロフィールの一番上に上がる。


ー彼女なんか欲しくないー

たった一言のツイート。


「おお、関谷〜」

副キャプテンの佐渡がトイレに入ってくる。慌てて、スマホをポケットにしまって何事もなかったように微笑んだ。

「どうした、何か嬉しそうな顔してるけど」

「五月雨祭の対戦相手、青藍中らしいぞ。
関谷、前から試合してみたいって言ってただろ」

「まじ?めちゃくちゃ嬉しい!」

喜びを大袈裟なくらいにガッツポーズで表現する。話が盛り上がりそうになったとき、

ーーー3ーCの佐渡君、放課後に応接室に来てください。繰り返しますーーー

佐渡を呼ぶアナウンスが流れる。その内容に本人は

「なんだ?応接室に来いだなんて、なかなかないよな・・・。
何かやってしまったような、そうじゃないような・・・」

心当たりを必死に探す佐渡。

「とにかくさ、放課後行ってこいよ」

後押しするように言う。それに頷き、教室に戻る佐渡。その姿を見送る関谷。


https://onl.la/hiH7SaM


 その頃、星崎は滝川と花森を探すために廊下を歩き回っている。

「どこにいるのよ、あの二人。どちらか教室にいてよ」

文句をぶつぶつ言いながらも、キョロキョロしていると

ーーードンッツーーー


「痛っ」

星崎が尻餅をつくと

「ごめんなさい!あれ、星崎先輩」

ぶつかった相手は花森だった。

「お互い、前見ようか」

星崎がそう言って二人は顔を見合わせてクスッと笑って、制服についた埃をササッとはらう。

「探してたから、ちょうどよかった。花森さんって風間さんと同じ部活だよね?」

「はい、そうです」

「風間さんに伝えて欲しいんだけど、五月雨祭の企画申請書、いつもらえるかなって」

申請書を一部渡す。

「わかりました。風間先輩に伝えておきますね」

丁寧に受け取って歩き出そうとするのを

「待って。滝川くんも探してるんだけど、どこにいるか知ってる?」

心当たりが全くないので、首を傾げる。

「そっか、ありがとう。全くどこにいるんだか」

そう言いながら、くるりと来た道を引き返していく星崎。花森も同じように歩き出し、百合を探しにいく。

(風間先輩、どこだろう・・・)

教室を覗き込みながら一つ一つ探していると、廊下の向こう側から四〜五人の女子の集団が歩いてくる。

「でさ、最近ブレイクしてるモデルの伊吹、かっこいいよね!」

「わかる!あのイケメンでスタイルいい人だよね!」

推しの話で盛り上がっているようだ。そのなかに百合がいるのを見つけると

「風間先輩、お話し中すみません。
星崎先輩から五月雨祭の企画申請書をいつもらえるのかなって伝言がありました」

一人一人に会釈してから用件を話す花森。

「ああ、忘れてた!今日書いておくね。
ところで、花森さんはモデルの伊吹、かっこいいと思うよね」

「いや、あんまり思わないですね」

さらっと言ったその一言が癇に障ったのか愛想笑いをする。

「そっか!伝言ありがとう」

さっきの様子はなんだったのかというように明るくなる百合。

「失礼しました」

居心地が悪くなった気がして、その場から離れる花森。

花森がいなくなったのを確認すると百合が

「あの子、バレー部で一緒なんだけど、制服があれじゃん?
ちょっとどうかと思わない」

少し嘲笑気味にこぼす。

https://onl.la/z46vFnC


その傍らで教室に戻った花森も

(風間先輩によく思われてないのかな・・・)

いつも部活で関わる機会が多いだけに、初めて百合がはっきりと見せた棘を気に留めずにはいられない。

「はあ・・・」

机に突っ伏していると

「どうしたの、花森さん」

滝川がいきなり目の前に現れたものだから、びっくりする。

「滝川先輩、脅かさないでください」

「ごめんごめん。さっき、百合と話してるの見かけたけど、何かあった?」

(滝川先輩、風間先輩と仲良いし、言ってもいいのかな・・・)

ちょっと言いよどみながらも

「僕の気のせいだったらいいんですけど、風間先輩によく思われてないのかなって・・・」

肩を落とすように打ち明ける。

「え、百合から?百合の性格からそんな風には見えないけれど、嫌なことしてたなら僕から言っておくよ」

「いえいえ、いいですよ!」

慌てて止めようとする。

「あれから、他の人に打ち明けたりした?」

滝川が尋ねると

「そこまで、たくさんの人に知ってもらおうって考えるの好きじゃないんです。
誰もが滝川先輩のように受け入れてくれる人じゃないから」

顔を曇らせる花森。

「そっか」

そう言って黙る滝川。なんともいえないような気まずい空気が二人の間に生まれる。

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