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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十六話 ありふれた朝

 恋の話に花が咲いている頃、体育館では男子バスケ部が練習している。

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ーーーダンダンーーー

バスケットボールの音が静かにこだまする。ゴールへの道には相手が三人立っている。首を振って周りの状況を確認していると相手の一人がボールを奪いにくる。
それを待っていたかのようにゆっくり一歩ずつ下がった後、早く走り、相手の横をすり抜けていく関谷。

その勢いのままゴールに一直線。

シュートしようとするが、同じようにジャンプした相手が立ちはだかる。

「ふっ」

お見通しだと言うような笑みを微かにみせ、シュートをやめ、大きく一歩踏み込んで片手でシュートする。

ーーーザシュッーーー

ボールが吸い込まれるようにネットを擦る。

ゴールが決まった瞬間、一瞬にして静けさが歓声に変わる。

「今日も調子いいぜ」

体育館のドアの向こうの女子生徒たちにVサインをする。

「相変わらず、関谷先輩かっこいい・・・」

完全に目がハートになっている百合。

「風間先輩、成井先生が呼んでますよ」

「ちょっと待って!あと五分!」

手で静止しようとすると

「関谷君、かっこいいもんねえ」

「でしょ!話がわかるなんてやるじゃない」

同志を見つけたように嬉しそうに振り向くとそこに立っていたのは成井先生。

「風間さん、今は何の時間かな」

微笑んでいるけれど目は笑っていない。

「・・・」

二人とも思考が停止する。

「よし、じゃあ練習に戻ろうか」

そう言いながら背中を押して練習に戻るように促す成井先生。

「風間先輩ってイケメン好きなんですか」

「誰でもそうだと思うけど、花森さんは違うの?」

少し言葉に棘があるような物言いをする。

「そう・・・ですよね」

有無を言わせないような圧を感じて言いよどむ。

「練習戻ろう!」

何事もなかったかのように、いつもの調子で練習に戻っていく。


「風間、また怒られてる」

怒られている様子を見ながら爆笑している関谷。そこに

「相変わらずカッコいいです!僕、キャプテンみたいにカッコいい男子になりたいんです!」

目を輝かせながら一年部員の一人がこっちへ来る。

「ありがとな。五月雨祭のエキシビション楽しもうな!」

男子バスケ部では憧れの存在としてみられている彼には何も悩みなどない。
誰もがそう思っていたし、彼自身もそう信じて疑わなかった。

それが彼の求めている日常であるように、またどこかで始まろうとしているもう一つの日常。そんな気配を感じさせる五月の終わり。


ーーーザアーザアーザアーーーー

梅雨の始まりを告げるような雨の日。

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「お兄ちゃん、待ってよ!」

ピンク色のパジャマ姿で一緒に下りてくる琴。

「琴、早くしないとお兄ちゃん行っちゃうぞ」

スポーツバッグに荷物を詰め込みながらそう言う颯。

「でも、お兄ちゃんはいつも待っててくれるでしょ?」

試すようににっこりする。

「しょうがないなあ・・・」

琴は俺の妹で小学二年生。水標中学の近くにある青藍小学校に通っている。年はかなり離れているが、兄が大好きで学校のある日はいつも途中まで一緒に行っている。

「あのね、お兄ちゃんの学校行きたいんだけどだめ・・・?」

「それは無理だな・・・。
あ、六月の終わりに学校でお祭りがあるんだけどその日なら来てもいいよ」

手をつないで歩きながら優しい声で話す。

「ほんと!やった!」

嬉しさを全身で表現するようにジャンプする。

「相変わらず、颯って琴ちゃんに甘いよね」

向かいの家から鍵を閉めた星崎がやって来る。

「碧お姉ちゃん!」

つないでいた手を離して星崎のもとへ駆け出していく。それを両手を大きく広げて抱きしめて抱っこする。

「本当、琴ちゃんは可愛い!」

頭を撫でながら言う。

「全く、琴は碧のことが俺よりも好きなんだな」

落ち込む様子をしてみるも

「碧お姉ちゃん、優しいから好きっ!」

とどめの一言をさらっと放つ。

「うう・・・」

かなりショックを受けたのか落胆する颯。

「颯と琴ちゃんのその流れ、何度も見てるこっちの身にもなってよ」

にんまりしながらも、まんざらでもなさそうにしている。

「そういえば、この前に滝川くんに颯と付き合ってるんじゃないかって言われたんだけど」

颯を指差しながら失笑する。

「え?滝川にそう言われたのか。そりゃ、笑える」

手を叩きながら笑う。

「琴ちゃん、わたしも一緒に学校行っていいかな」

「いいとも〜!」

その答えに三人で顔を見合わせて笑いながら、学校へ向かう。景色の流れに時々立ち止まりながら、琴の歩幅に合わせてゆっくり歩く。

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「そういえば、琴ちゃんは最近、好きなものは何かある?」

「えっとね・・・プリキュア!」

リュックにつけているプリキュアの缶バッジを見せる。

「プリキュアかあ、可愛いもんね」

「うん!お兄ちゃんと一緒に早起きして見てるんだよ」

颯の方を向いて首を少し傾げて同意を求める。それに頷いて返事する。

「へえ、颯も見てるんだ。意外」

目を白黒させながら颯の方を見る。世間話をしているうちに水標中学に着いた。

「じゃあ、気をつけて行ってくるんだぞ」

「うん!お兄ちゃんも、碧お姉ちゃんもまたね!」

手を振って琴を見送る二人。

「おはよう、今日も妹と一緒で仲良いな」

青野先生が微笑みながら校門に立っている。

「青野先生、おはよ」

「青野先生、おはようございます」

それぞれ挨拶する。

「朝から元気そうな顔でいいな。そういえば、関谷、片山先生から聞いたぞ。五月雨祭でエキシビションやるんだって?」

思い出したように話す。

「おっ、さすが俺くらいになるとそこまで伝わってくるんだな」

自慢げな態度をする。

「それはどうかな。それに理科の宿題出してないとも聞いたんだけどなあ」

「わたしも同じこと片山先生から聞いて、どうしたらいいのか相談されたよ」

追い打ちをかけるような一言。

「わかったわかった。今日やって出すよ」

二人の圧に負けて渋々頷く。

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