連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第二十話 雨のせい
今日も梅雨が終わるどころか、威力を増して降る雨の音に目が覚める。
「ふあーあ」
背伸びを大きくして息を吐く関谷。横にある目覚まし時計のアラームを止めてぼんやりとする。
その後、Twitterを開いて、ツイートをする。これが毎日のルーティーン。どうせ今日も憂鬱な1日であることに変わりはない。
ー男子とつるむのは楽しいけど、俺はただの友達になんて見れなくなってしまったー
小さな本音を吐き出してから学校へ向かう。
雨のひどさに顔をしかめながらも傘を差して歩いてゆく。
関谷の足踏みと同時に、水たまりがいつもと違って音を奏でるように弾んでいく。それが心地よくて一歩一歩大きめの歩幅で歩くたびに勢いを増す。
周りに見える傘が黒やビニール傘だらけで、まるでモノクロームの世界。そんな風に見えてくる。そんなことを考えながら校門に着くと
「颯!」
後ろから星崎の声がした。振り向くと
「おはよう」
大きな水たまりをぴょんと飛び越える星崎。
「よっ」
いつものように挨拶を交わす関谷。
「今日も雨だね、颯の嫌いな」
「そうだな・・・」
「だから、朝から暗いなって」
一歩先に進んで、くるりとこっちを向く。
「やけにそういうことだけ覚えてるよな」
半笑いして星崎の方を見ないようにする。
(勘が良いのはいいんだけど、時にはそうであってほしくないな)
「とりあえず、先行くね!」
何か用事があるようで小走りで水たまりを避けて、あっという間に星崎は行ってしまった。
「雨、嫌いじゃないんだけどな」
ゆっくりと空模様を見上げる。そんな彼の横を多くの生徒たちが通り過ぎていく。それでも立ち尽くしたまま。
今、何を考えてそこにいるのか知る者はそこにいる彼しかいなかった。
その様子を見かねたのか校舎から青野先生が傘を差しながら来る。
「どうした、関谷。顔暗いぞ、体調悪いか?」
関谷の顔色を見る。
「青野先生。今から言うことは俺の独り言で誰も聞いていない。そう思ってくれる?」
唐突な問いかけから始まるその声に、少し驚くも真剣な顔つきで首を縦に振る。
「本当のことを言えない自分ってなんなんだろ。慣れてるつもりでいたのに」
悲痛な、その一言に何も言えない。それを言うと同時に傘を閉じて雨に濡れる関谷。
朝の一時間目が始まるチャイムが校舎から響いているのに、二人は動けないでいる。
「関谷、キミが何を言えないでいるのか僕にはわからない。でも、無理やり聞こうとも思わない」
何かを決意したように青野先生も傘を閉じて、関谷と同じように雨に濡れていく。
「このままでいていいのか?」
振り向きながら聞く関谷。そこに
「こら、あなたたち!一時間目の授業始まってるのに何やってるのよ!」
ズカズカとすごい剣幕の宮野先生が割り込んでくる。
「宮野先生、関谷は・・・」
青野先生が事情を説明しようとしたが
「青野先生、あなた教師でしょ。生徒と一緒になって何してるのよ」
聞く耳も持たず、青野先生の行動を非難する。
「青野先生、俺、教室に行くから」
こっちの方を見向きもしないまま、青野先生と宮野先生の間をすり抜けていった。
「関谷!」
追いかけようとするが、
「青野先生!ちょっと話があるわ」
腕を掴んで止められ、関谷を追いかけることはできなかった。
(関谷・・・。俺はお前にできることはない・・・のか?)
「聞いてるんですか、青野先生!」
ますますヒートアップしていく宮野先生の怒声に
「宮野先生、なんですか?」
仕方ないというような表情で見る。
「とりあえず、その濡れたままなのはみっともないから保健室で話しましょう」
「わかりました」
とりあえず、保健室に向かい、ドアを開ける。
「青野先生、どうしたの。その姿・・・」
成井先生が気づき、慌ててタオルを持ってくる。
そのタオルを受け取り、
「ちょっと着替えるので待っていてください」
一言、宮野先生に断って奥にある部屋で着替える。
着替えが終わるのを待っている間、
「成井先生は青野先生の仕事ぶりどう思うかしら」
口を開く宮野先生。
「そうですね。
私は青野先生は生徒に寄り添うことのできる素晴らしい先生だと思っていますよ」
その言葉に口を尖らせて
「生徒のことに首を突っ込みすぎじゃないの」
同意を求めるような物言いをする。
「でも、たまにはそういう先生がいたっていいんじゃないかって思うんですよ」
着替えが終わった青野先生が口を出す。
「じゃあ、話しましょうか」
一息ついて、向き合う形で座る。成井先生は心配そうに様子を見ながら二人の話に耳を傾ける。
「青野先生、あなたはあそこで何してたの?」
単刀直入に切り込む。
「関谷と話をしてたんです」
「百歩譲ってそれはいいものの、あなたまで雨に濡れる必要はあったのかしら」
「関谷の気持ちに、ただ話を聞くだけじゃいけない気がしたんだ」
「それで、気は済んだの」
少し苛立っているのか貧乏ゆすりをし始める。
「まだ解決はしてない」
「そう。でも、生徒は学業が本分なの。そこはしっかり考えてもらえるかしら」
釘を刺すように言う宮野先生。
「わかりました」
青野先生のその返事に納得したのか
「では、授業があるので」
足早に保健室をあとにする。
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