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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第二十六話 嘘の意味


 その言葉に走馬灯のように思い出が駆け巡ってゆく関谷の脳内。


「関谷、僕は星崎先輩からしたらお前と過ごした時間は短い。
でも、関谷颯が好きだ。
どこまでもバスケが好きで、時には笑わせてくれてそんな関谷がいなくなるわけじゃない。もっとこれからも好きになるんだと思う。
だから、これからも馬鹿みたいに笑い合おう」

マイクを持つ手は震えているけど、心のこもった一言を向ける滝川。

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「そうですよ!僕は関谷先輩のこと、カッコいいって思ってます。
まだ仲良くなれてないかもしれないけどこれからです!」

ニカっと笑って花森もマイクで話しかける。

「そんなの子供だからそう思うだけだ。
君たちが大人になった時に、自分の子供がゲイだったら愛せるか?育てられるか?」

青野先生に抑えられながらも抵抗する関谷の父親。


「愛せます。

僕は身体は女性だけど男性として生きています。最初はあなたと同じように

“誰からも愛されることはない”

そう思ってきました。

だから、周りを拒絶したし、お母さんに認めてもらうこともありませんでした。

でも、そんな僕を変えてくれた人がいます。
“自分でいいんだ”って・・・そう思わせてくれた人がいます。

だから、僕はどんな人でも好きになれる」

滝川、星崎、青野先生、成井先生、片山先生。順番に見ながらはっきりと宣言する。

「ふん」

納得いかない表情の父親。

「話に割り込むようで悪いですが、警察呼ばせていただきましたので」

静かにパンプスを鳴らしながら、宮野先生がやってくる。

「とにかく、汚らわしいやつといたくない。もう二度と家に帰ってくるな」

関谷の父親はそう言い放って青野先生と一緒に玄関へと歩いていく。

事実上の絶縁を宣言された関谷はもう気力など残っておらず、座り込む。数分後、警察が到着し、関谷の父親を任意同行で連れていき、五月雨祭は中止となってしまった。


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「青野先生、関谷をお願いしていいですか。花森さんも頼む。
僕は行かなきゃいけないところがあるから」

じわじわと湧きあがる怒りの表情の滝川。

「滝川くん、わたしも行かせて」

訴えるように見つめる星崎に頷いて、観客席へと向かう。その人物は見下ろすように一部始終を眺めていた。

「百合」

一声かける。

「真、それに星崎先輩」

目を見張る百合だが、表情はそこまで変わることはない。

「まさか、こんなことをするとは思わなかったよ。なんであんなことしたんだ」

「え?何?真も関谷先輩の味方をするの?
ずっと嘘ついてたんだよ。それにゲイと友達になりたくないでしょ」

悪びれもなく、自分のしたことは正しいと言い張る百合。

「風間さん」

そう言って百合の頬に一発、平手打ちする星崎。

「何するんですか」

頬を押さえて非難する。

「颯の痛みは本当はこんなものじゃ済まない。
颯にとっては言いたくなかったことだったのに、風間さんが言ってしまった。
それがどれだけ重くて傷つくものだってわかる?」

「嘘って悪いことでしょ」

反論して聞く耳を持たない百合。

「百合、“嘘”は確かに良くないことかもしれない。
けど、それって本当に良くないことなのかな、僕はこう思うんだ。

それ以上に怖いのは言葉なんじゃないかって。

言葉は人を良いほうにも悪いほうにも変えられる魔法のようなものだと思う。
けど、一度出してしまったらもう取り消せないんだよ。
まるで尖ったナイフのように抉る傷を残して・・・」

「・・・・・・」

滝川のその一言に何も言い返せなくなる百合。

「わたし、こう思うんだ。
颯が嘘をついてまで言えなかったのは“優しさ”からだったのかもしれないって。

もちろん、本当に言いたくないって思ってたかもしれない。
でも、わたしたちを傷つけたくなかったかもしれない。
一人で抱え込んじゃうところはバカだけど、優しいとこはずっとあのまんま」

そっと小さく微笑む星崎。

「ああ、嘘は悪じゃなくて“優しい嘘”もあって良いんじゃないかな」

そう問いかける滝川に

「優しい嘘か・・・。もしかしたらそうなのかもしれないね」

何かがストンと落ちた音がした。

「ごめんなさい」

百合が申し訳なさそうに謝る。

「その言葉、いつか颯に言ってあげて」

「わかりました」

何度もペコペコしながら体育館を出て行った。


 その頃、関谷は保健室に移動していて、何も言葉を発することなく座っていた。その様子をただじっと見守る青野先生たち。

「やっぱり、こうなると思ってた・・・・
はあ・・・」

ため息ばかりついている関谷。

「ねえ、青野先生、
もう自分がわからないんだ・・・」

強がるように笑うけど、それはひきつっていて辛そうな表情に見える。

「関谷先輩、こんな時に笑わないでください」

花森が関谷の隣に座って背中に手をおく。

「今だけ・・・今だけで良いから、
見ないふりしてくれないか」

そう言って関谷が嗚咽を漏らし始める。

それを見ないように青野先生たちは背を向けて、静かに待つ。
関谷にとっては、今までの想いを全て吐き出せた瞬間だったのだろうか。
しばらくの間、それは続いた。


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そして、五分後

「ありがとう」

すっきりしたのか、そう言ったのを

「ん?何かあったか?
何もなかったような気するけどな」

そう答える青野先生。


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