カケルプレイノット|イワケン氏インタビュー 前編
XR/メタバースの業界人へのインタビューを通して、業界のリアルな声と熱量をお届けする「カケルプレイノット」
今回は、株式会社サイバーエージェントでXRの事業開発をしながら、個人でイワケンラボを主宰されているイワケン氏に、株式会社playknot代表の山口恭兵がインタビューを行いました。
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XR研究所の「所長」?
山口:本日インタビュアーを務める、株式会社playknotの山口です。イワケンさん、まずはご自身のご紹介をお願いできますか。会社員としての顔と個人の活動、二つの顔があると思いますが。
イワケン:そうですね。会社員としては、2018年に新卒で株式会社サイバーエージェントに入社しました。そのときはUnityエンジニアとして入って...
山口:ソシャゲ(ソーシャルゲーム)とか作ってたんですか?
イワケン:ちょっとややこしいんですが、当初はソシャゲを作るゲーム事業部に行く予定でした。僕個人の思いとしては当時からARとかHoloLensが好きでやりたかったんですけど、サイバーではUnityエンジニアはゲーム事業部に行くのが王道なんですよ。でも、2018年当時、VTuberの会社が次々立ち上がる頃がありました。
その頃、会社でもVTuber事業を立ち上げることになり、VTuberに対してかなり自分も興味ある領域だったので、ゲーム事業部に行く予定だったのがVTuber事業に行きたいとなり、ファーストキャリアは新規事業部のVTuberの裏方エンジニアでした。
山口:新規事業部の裏方エンジニアだったんですね。VTuberのライブとかやってたんですか?
イワケン:生放送もやりますし、映像も作りました。スタートアップみたいな形だったので開発から、企画、営業、採用、広報、経営ボードメンバーまで何でもやっていました。これがファーストキャリアでした。
それで、紆余曲折あって、今年の3月からXR研究所というところにいます。
山口:R&D部門みたいな?
イワケン:アカデミックな研究というよりも、技術者目線で技術起点も考えつつ、ゴールは中長期的なXR事業を生み出していくことです。技術×事業開発系で、プロジェクトをいろいろ模索していく部署ですね。
山口:イワケンさんご自身もエンジニアですが、事業開発目線の要員は別にいるんですか?
イワケン:プロジェクトごとにビジネスサイドの方を巻き込む形で動いています。技術者視点で最初は動きつつも、会社として意義があるプロジェクトになるようにビジネスサイドの知恵を引き出します。会社的にやった方がいいと合意したらプロジェクト化するという形です。
山口:なるほどですね。
イワケン:これを1人部署でやっています。
山口:1人部署なんですか?
イワケン:そうです。今年の3月に「イワケンXR研究所やらない?」と声をかけてもらい、立ち上げました。
山口:ということは、XR研究所の、
イワケン:立ち上げ人であり、
山口:研究・・・長?
イワケン:研究長。なので所長を名乗っています。名刺には所長って書いてもらいました。
山口:なるほどですね。一言で言うと、サイバーエージェントのXR研究所の所長で、これが会社員としての顔なんですね。それで、個人でもいくつかコミュニティを運営されていますよね。それについても伺っていいですか。
イワケン:そうですね。現在のXR研究所のように会社でずっとXRをやるのが理想ですが、会社でできない時期もあると想定すべきだと思って過ごしてきました。。なので、会社以外の場所で個人として、XRのレベルアップやプロジェクトができる環境を作りたいと思っていて、いろいろなコミュニティやイベントを立ち上げていました。
最初にやったのが「withARハッカソン」っていう、ARと異業種を掛け合わせたハッカソンを、2019年からもう5年以上、14回ぐらいやっています。そこからARの仲間を作ったり、自分自身も参加者としてエンジニアとしてレベルアップをしていました。
それで、今メインに置いているのがイワケンラボという技術好きな学生、特にXR領域が好きな学生を応援するコミュニティです。ゆるく言うと社会人も少しいるインカレサークルみたいな感覚ですかね。全国から50名ぐらいの学生が集まって、その学生を応援しつつ、たまにプロジェクトをやったりしています。
山口:そのイワケンラボのプロジェクトって、例えばどういうプロジェクトがありますか。
イワケン:そうですね。技術書典の本を書いたりなどはありますが、基本的にはイワケンラボのプロジェクトというよりも、学生がやりたいプロジェクトを応援するという形です。なので基本的に学生がやっているのに入るという形になります。例えば、Nianticさんと一緒に8th Wallのワークショップをみなとみらいで開きました。Niantic好きなメンバーに乗っかった形になります。
山口:8th Wallを使ったクリエイティブでどんなものが表現できるかみたいな。
イワケン:そうですね。あと一番大きいのは、「TARGET」というHoloLensと謎解きを組み合わせたコンテンツを商業施設として出しましょうというプロジェクトです。それを本当に謎解き制作のプロの方と組んでやって、2023年5月にリリースして、2000人以上の方に体験してもらいました。
山口:なんと。それってアプリなんですか?
イワケン:HoloLensのアプリですね。配布しているというよりは、そこにチケットを買って行くと体験できるという形です。
山口:なんか下北でやってませんでした?
イワケン:それです。下北でやってたやつです。
山口:なるほど。それはイワケンラボのプロジェクトなんですね。
イワケン:そうですね。これは僕が個人としてめっちゃやりたくて、イワケンラボのメンバーを巻き込んで実現したという形です。
イワケンラボの原動力は「孤独」?
山口:イワケンさんのイワケンラボの原動力ってなんなんですか?
イワケン:大きく分けて二つあります。一つは僕の性質から来る根本的なモチベーション、もう一つは将来こうなったらいいなという理想像です。
まず、僕は元々学生をエンパワーメントするのが得意だし好きなんです。それに加えて、自分自身学生だったときに、なんて言うんでしょうか。すごく孤独だったんです、Unityというか、XR領域において。
山口:身近にいないと。
イワケン:身近に仲間もいないし、どう進んでいけばいいのかも分からなかった。今、僕は「イワケン」という名前で活動していますが、当時はXRエンジニアのロールモデルが本当に少なくて。就職の仕方すら分からない状況でした。
山口:ロールモデルが少ないっていうのは、エンジニアでありつつ、会社員として仕事もしながら、個としても独立したコミュニティを作ることが少ないってことですか?
イワケン:そうですね。少ないです。それに加えて、シンプルにXRエンジニアとして若手で仕事をしている人自体がめちゃくちゃ少ないんです。特に学生からすると、そういった姿があまり見えない。
山口:XR界隈で若い人でエンジニアとして仕事できるみたいなのが、あんまりイメージつかないし少ないしみたいな。
イワケン:そうなんです。さらに言うと、XR業界って求人自体が少ないし、就活もめっちゃ難易度高いんですよ。新卒よりも中途採用の方が優先度が高いので、新卒を目指す学生にとってはさらにハードルが上がっちゃうんです。
そんな状況の中で、学生がどう戦っていけばいいのか、何かアドバイスを伝えたいなって思うんです。これって結構大きな課題だと思っていて。だからこそ、学生~新卒3年目くらいの人たちをエンパワーメントしたい。それが僕の大きなモチベーションの一つになっているんです。
山口:なるほど。
イワケン:もうひとつ、目的というかゴール的な側面で言うと、XRのような新しい領域に挑戦したいときの課題があるんです。会社だと、「これで利益や売上がどれくらい上がるんだ」という確実性をある程度証明しないと、新しいことを始めるのが難しいんですよ。
山口:そうですね。
イワケン:そういったビジネス面は確かに大事なんですが、それとは別に「これ面白そうだからやってみない?」みたいな、純粋に情熱ベースや好奇心ベースのアプローチも必要だと思うんです。実は、そういった取り組みが後から振り返ると大きな価値を生み出していることもあると思っているんです。
山口:なるほど。
イワケン:XRの領域って今、両方のアプローチが必要だと思うんです。ビジネス面も大事だけど、まだデバイスの普及台数が限られていてマネタイズが難しい状況だからこそ、好奇心や情熱ベースでどんどん新しいものを生み出していく動きも同時に必要なんです。そう考えたときに、やっぱり情熱がある人が集まってコミュニティを作るのが重要だと思ったんです。
山口:じゃあのちのち、空間に3Dを出すXRデバイスが今よりもっと普及して市場ができたとき、振り返ったらイワケンラボにいた人たちが、当時やってたことが今に繋がってるよねというようなことですね。
イワケンさんは「XR界の吉田松陰」を掲げてらっしゃいますが、そういう意味においての吉田松陰ってことですか?
イワケン:そうですね。イワケンラボの「卒業生」が将来的にXR業界で大きく活躍している、みたいな
山口:高杉晋作みたいな。
イワケン:そうですね、高杉晋作や伊藤博文みたいな。最近のテック業界ではDeNAマフィアとかペイパルマフィアみたいに、ある組織の卒業生が後にめちゃくちゃ活躍する表現として「○○マフィア」という言葉がありますよね。
山口:イワケンマフィア?
イワケン:「イワケンラボマフィア」みたいな。そういう未来のメタファーとして、吉田松陰であり、イワケンラボは令和の松下村塾を目指しています。
そういう未来がわくわくしますし、現実問題そういうコミュニティを持った方が実現確率が高いんじゃないかと思っています。
感動とわくわく感から夢を追い続け、ライフワークに
山口:イワケンさんは学生時代からXRをもう10年ぐらいやっていますよね。なんでなんですか。HoloLensに初めて感動したんですか?
イワケン:2016年に、HoloLensを体験してシンプルに「これ面白い!!」と感動したんです。あとその数年前からUnityが好きだったというのも大きいですね。Unityでいろんな3Dの世界を作れるというわくわく感、夢を追い続けて今があります。
山口:ハードウェアを初期衝動的に感動したのと、技術としてはゲームとかじゃなくてUnityが好きだったんですね。
イワケン:そうなんです。特にHoloLensが出てきたときに「UnityでHoloLensアプリもいろいろ作れるじゃん」って気付いて。「ゲームよりこっちを作るの面白くね?」と思ったんです。
それが2017年の大学院1年生の就活シーズンぐらいで、ちょうど「社会人になるからにはXRを仕事にしないといけない」「ビジネスのこともちょっと学ばなきゃ」って考えていた時期でした。でも、会社でXRをやるのは難しいってなったときに、「じゃあどうするか」って考えたんです。
結局、ライフワークにしたいんですよね、XRを。
だから、いろんな形でXR関係のプロジェクトをできる状態を作らなきゃと思って、コミュニティやハッカソンなどいろんな形式を試してみようって発想になって。
もう5年ぐらいいろいろ試していて。その結果として今のイワケンラボだったりサイバーエージェントのXR研究所だったりが生まれたんです。
高校の野球部ではマネージャー志望だった
山口:XRには興味あったけど、仲間が少なかった。UnityやってたけどXRのUnityやってる人が少なかった。仕事以外でも場がほしかった。ずっとそれがベースでコミュニティを運営しているということですか?
イワケン:実は、エンパワーメントという意味だと、もっと前からですね。小学校のときから野球をやっていて、当時、野村克也さんの本が好きだったんです。
「野村ノート」という本を小学校のときに読んで、野村さんってプレーヤーとしてもすごかったんですが、この本には主に監督時代の内容が書かれていて。
そこで強調されていたのが「選手をどう生かすか」ということでした。
選手を生かすことによって勝利に導くという考え方に、僕はすごくそこに一番影響を受けていて。だから基本僕の考えは、プレイヤーを活躍させてどう進化させるかということなんです。それで、高校のときはプレイヤーじゃなくて、野球部マネージャー、スコアラーでした。
山口:ふうん。結構強いところだったんですか?
イワケン:地元だと強豪校でした。そこでマネージャーやらせてくださいと言うために、あえてそこに行きました。
山口:まじですか。
イワケン:分析と練習管理をしていました。もう野球を学べてチームに貢献できればいいみたいな。それが僕の原点なんです。
山口:変わってますね。野球が好きな高校生でそれって。
イワケン:変わってますね。普通マネージャーって怪我した人だったりしますけど、僕は監督みたいなことを当時やりたかったんです。そんなにプレーはうまくないけど野球は好きだし。それで3年間結構楽しくやれました。
だからXRも、自分がプレイヤーで、大谷翔平みたいに頑張るというスタイルよりも、自分が少し俯瞰して、エンパワーメントしたいんです。いうならば、日本を勝たせたいみたいな気持ちです。
山口:そうなんですか。
イワケン:日本を1チームとした時に、対海外でというか。自分の人生として、XRの技術は面白いと思いますし、日本には独自のコンテンツもあるし、自分のアイデンティティもあるし。
日本がXR領域で勝つという未来にわくわくするときに、自分に何ができるか考えたら、たしかにエンジニアもいいんですけど、エンジニアだけだともっと他のプレーヤーがいい。しかも、コミュニティは1対1じゃなくて1対Nで、人同士でエンパワーメントする、加速するっていう仕組みなのが良くて。だから自分はコミュニティを作るというか。そういう戦い方がすごく好きなんです。
山口:しかもハードとソフトのプラットフォームって別にもうGAFAとかのメガテックがやってるし。1人でどうのこうのできるもんでもないですし。
イワケン:そうなんです。僕はやっぱり人をエンパワーメントすることがずっと好きなのでそういう意味で今コミュニティをやってるんです。
続きは後編で
今回は、株式会社サイバーエージェントでXRの事業開発をしながら、個人でイワケンラボを主宰されているイワケン氏に、株式会社playknot代表の山口恭兵がインタビューを行いました。
「カケルプレイノット」では、様々なXR/メタバースの業界人へのインタビューを通して、業界のリアルな声と熱量をお届けしています。
次回、後編をお届けします。ぜひ他の記事もご覧いただけますと幸いです。