時代劇Love
韓国を中心にアジア映画の感想文を書き続けておられるブロ友さん。
『新感染(原題: 釜山行き)』のあの力強いオッさん、マ・ドンソクが売れ売れなの知らんくてすまんかったね。
でも、売れたのはあれがきっかけでしょ? 最高ですもん、あの映画。
◆釜山行き(新感染)予告編
※マ・ドンソクは0;47秒に出てきます。ドンソク言うても鈍足ってわけじゃありません。多分。
ほんで釜山行きの続編が、来年公開されるそうな。これは必見でしょう。
ここまでは、つかみ。
さて、そのブロ友さんが遂にわーくに時代劇に進出。『たそがれ清兵衛』の感想文を書いておられた。これは食いつかなきゃならん。なのでコメントさせていただきました。
自分らが幼い頃(60年代)から2、30年前まで、時代劇は身近であった。テレビのみならず60年代ー70年代初頭までは映画もたくさん。俺はそんな洗礼を ー 英国ホラー映画とともに ー 受け、トラウマ? いやさ、時代劇への思い入れは相応に深い。
時代劇といえば「年寄りが見るもの」「マンネリ」等おっしゃる向きがある。これは水戸黄門や暴れん坊将軍のイメージが強いからではないか。
あれも確かに時代劇じゃある。偉大なるマンネリズムにも見るべきところはある。しかし、時代劇はまことに奥深く豊饒であり、エンタメであると同時に殆ど文学の世界。
たとえば件の『たそがれ清兵衛』は、親子愛・男女愛 vs 世俗権力の対比であり、結末でそこにカタルシスが生まれる。
◆たそがれ清兵衛 予告編
音楽はあの冨田勲、テーマ曲は井上陽水。スタッフに中岡源権、長沼六男、黒澤和子、西岡善信ら黒澤組を迎えた社会主義リアリズムの名作。明治維新にも疑問を投げかけた、むろん反戦映画である。
宮沢りえが真田広之の嫁になるとかならないとか、設定が甘いとか、そんなことを言う向きは退場。権力の横暴、人と人とが殺し合うとはいかなることであるか。そんなリアリズムを描いており、だからああなったので、そこを読み取れない奴は「大人」じゃない。
※ちなみに俺が一番好きなのは、嵐圭史さん@前進座が演じる、あの家老です。
ついでにブロ友さんにおすすめしたのは、同じく山田洋次監督の
◆隠し剣鬼の爪
いいですか、この「色」にご注目ください。『たそがれ清兵衛』が割合暖色なのに対し、『隠し剣』は寒色。東北の冬、荒凉たる自然と貧しい海坂藩、そしてドラマの切なさを表し余りない。
テーマは前作と同様も、あれが暖ならこれは寒。松たか子が大っきなお目々から、はらはら涙を流す。だからこそラストの暖かさが生きる。
https://youtu.be/OjH5u-kcWM4
スタッフは引き続き黒澤組。音楽も冨田勲。山田監督は寅さんの初代マドンナ光本幸子@新派 を、35年ぶりに起用。俺、たそがれ清兵衛よりこっちの方が好きかも。
永瀬君はね、とても良い役者だと思う。上手いというより「良い」。キョンキョンとの離婚でバーニングから圧力あったのか干されちゃったけど、凡百のアンちゃんども(自称俳優)が跋扈する昨今、彼のような役者こそわーくにには必要ではないか。
良し悪し分からぬ馬鹿がのさばって、国が悪くなるから。
上記いずれも原作は、藤沢周平。
あとは黒澤明『七人の侍』すね。世界最高の映画といっても過言じゃない。
◆予告篇
黒澤時代劇なら、さて、どうやって敵中突破しますかねの『隠し砦の三悪人』(ご存知スターウォーズの元ネタ)や、ダシール・ハメットから設定をいただいた『用心棒』、「スピード」も真っ青のジェットコースタームービー『椿三十郎』もオススメ。
小林正樹監督は『切腹』すね、切腹。
江戸の初期。元広島藩・福島政則家に仕えていた老武士(仲代達矢)は、三代将軍家光による取り潰し政策で禄を失い、娘(岩下志麻)とその婿(石浜朗)ともども江戸で暮らしている。
岩下志麻が妊娠す。貧窮で進退極まった石浜朗は、当時江戸で流行っていた〝切腹たかり〝の挙にでる。それは各藩の江戸屋敷に赴き「お庭先を拝借し、腹を切りたい」と申し出ることで当該の留守居役などから慰留の金品をせしめるという、藩の体面につけ込んだ詐欺的手法。
取り潰し政策で江戸には浪人が数多。そんな社会情勢もある。
石浜朗は井伊屋敷でそれを敢行する。が、井伊家の江戸家老三國連太郎は、そんなたかりを許さない。本当に腹を切らせてしまう。
石浜朗は貧乏浪人ゆえ、刀などとっくの昔に売っ払っている。三國連太郎は竹光で切腹させる。
※仲代達矢氏によれば、カンヌ映画祭で上映された際、この場面で欧州の御婦人方が何人も卒倒したとか。
そして仲代達矢と三國連太郎は対決。議論の長台詞で。丹波哲郎とは本身(真剣)で。
◆切腹
仲代達矢は当時29歳。信じられますかあなた。
黒澤明も小林正樹も、当時の映画はきちんと時代背景を踏まえ、また侍の所作でも伝統に則っている。
役者は兎にも角にも、まず「歩き方」という。俺はエリザベート「夜のボート」のあの場面。後ろを歩く老夫婦、その夫役なら世界一。なーんてことを言うが、もちろん冗談である。
仲代さんが俳優座研究生の頃、19歳で初めて出たのが件の『七人の侍』。
ほとんど ー というより完全な ー エキストラだったが侍の役。台詞なぞなく左から右へ歩くだけ。黒澤監督は怒った。「俳優座は歩き方も教えないのか!」。朝9時から午後3時まで、志村喬・三船敏郎他お歴々を待たせたままで延々撮り直ししたのは有名な話。
なので東山紀之の「必殺」なんて、見ちゃいられないのである。
観客・見る側が阿呆であれば、作る側もそれに甘んじ、いい加減なものを作る。視聴率さえ取れれば良い、人気タレントを起用すれば良い。
悪貨と悪貨で良貨を駆逐し、世の中が悪くなってゆく。良し悪し分からぬ馬鹿どもが、見巧者を批判する。
では何が見巧者を養成するか、それは昔の時代劇。水戸黄門じゃないですよ。
所作に台詞(回し)、すなわち言葉の重み。「役者は楽器」とは、仲代達矢氏はじめ名優が必ず口にすることで、囁き声でもキャパ1,500人の小屋に響かせねばならん。もちろんマイク無しで。
往時の映画は映画会社の専属や俳優座・文学座・民藝ら新劇人、女優はほとんど宝塚で成っていた。もの凄い訓練を受けていたから芝居が違う。
いっぽう馬鹿は、ジャニタレがたまに出る舞台でもスタンディングオベーション。
時代といえば時代かも。だからこそ、時代劇を見ましょう。
大人であるために。馬鹿にならないために。