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小さな日用品からつながる 壮大な宇宙のダイナミクス|岩崎貴宏「もし、アップルパイを最初からつくろうと思うなら、君はまず宇宙を作らなきゃ」 (金津創作の森)
福井県にある 金津創作の森美術館で、岩崎貴宏さんの個展「もし、アップルパイを最初からつくろうと思うなら、君はまず宇宙を作らなきゃ」 が開催されています。
長くて、ちょっと不思議なタイトル。でも、展示を見たあとにはその言葉の意味が実感できるような展覧会でした。
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▍美術作家・岩崎 貴宏さん
岩崎 貴宏さんは、1975年広島県生まれ、広島県在住のアーティスト。タオルや歯ブラシなど私たちの身の回りにあるものを素材に、その土地の日常の風景と接続する繊細で小さな見立ての世界をつくりだしています。
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各地の芸術祭などにも多く参加され、2017年にはヴェネチア・ビエンナーレの日本館代表として個展「逆さにすれば、森」を開催しました。
▍緻密な造形で表現される 実像と虚像の世界
暗幕をくぐって最初の展示室にはいると、目の前に広がるのは夜の工事現場のような薄暗い空間。その地面にある水たまりの中には、バリケードなどが映り込んでいるように見えます。
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美術館の中に本物の水たまり?それとも鏡?と眼をこらしてその中を見つめていると、その水たまりの中に小さな光が。それは、工事中の北陸新幹線の橋脚の風景。
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改めて空間をみわたすと、水たまりの中だけに「過去」の風景がうつしだされていることに気づきます。
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続く展示室では、一転して明るい部屋の中、水面に映るような上下対称の朽ちかけた羅生門が浮かびます。壊れた壁や崩れ落ちそうな屋根まで、緻密に再現されています。
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この「羅生門」の作品自体は2023年にアメリカで発表されたものだそうですが、今回はその周囲の「水面」に木の葉がいくつも浮かび、私たちが水面の下から見上げるような幻想をつくり出していました。
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水たまりの中を覗き込む最初の展示室から、こちらでは水の中から見上げるようで、緻密な実像と虚像の風景を異なる角度から見つめる作品でした。
▍日用品をつかった”見立て”の面白さ
次の展示室では、福井の風景や名物をイメージさせるモチーフを取り込んだ作品が4作品展開されます。
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六角形の鉛筆を連ねて表現されるのは、東尋坊の柱状節理。
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また、山に見立てたタオルの山の上には、その繊維で作られた鉄塔が建ち並び、合間には洗濯バサミや定規を組み合わせた北陸新幹線の線路が通ります。
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身の周りにあるものをつかった”見立て”のような手法で、街から山まで、広大な風景が表現されています。
眼をうつすと、その「見立て」の街の下方には、恐竜の卵を思わせる鳥の卵や、歴史の積み重ねと地層の連なりを連想させる新聞の束も。地層が露出した段差で、ケーブルが切断されています。
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また、カラフルな街の風景の裏側には、雪山を思わせる白いタオルや綿棒、ブラシでつくられた風景も。それは、美しい雪景色を想像させる一方、白い衛生用品からは、コロナ禍も連想してしまいます。
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その隣では、食品の缶詰やオイル缶の中に、様々な食べられる植物が植えられています。非常食の缶詰を食べてしまったあと、その缶詰の容器を使ってさらに食べられる植物を育てる…
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ポップなパッケージに囲まれながら、その世界がどのような状態なのか想像させられます。
▍身近なものから 世界の成り立ちを見つめる
岩崎貴宏さんはこれまでの作品の中でも、石油などのエネルギー問題や、出身地の広島の歴史に絡む作品も制作されていて、そういった作品では割と黒い色が印象的に用いられていたように感じます。
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今回の展覧会の中では、そういった問題を想起させるモチーフが独立した作品としてではなく、カラフルな風景や、日常生活ととても近いところにあるもの・地続きにあるものという様子が強調して表現されていたような印象を受けました。
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そのため、わたしは少し「怖さ」も感じましたが、普段は意識することの無い「地球規模」の課題も、じつはわたしたちの「日常」ととても近いところにあって、いつ自分が直面してもおかしくないものだということを意識する展覧会でした。
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ただ、そういった見方ではなく、その緻密な造形とか見立ての面白さを楽しむこともできる、多様な見方ができるようにも感じます。
「もし、アップルパイを最初からつくろうと思うなら、君はまず宇宙を作らなきゃ」 という本展のタイトルは、天文学者カール・セーガンの言葉だそうです。最初は不思議な言葉だと思っていたこのタイトルも、展示を観ると、わたしたちの日常も、ふだんは意識をしないだけで、宇宙の成り立ちにまでつながっていくことを感じられました。
展覧会概要|アートドキュメント2024 岩崎貴宏「もし、アップルパイを最初からつくろうと思うなら、君はまず宇宙を作らなきゃ」
URL:https://sosaku.jp/event/2024/art-document/
会期:2024年9月28日(土)~ 12月15日(日)
時間:10:00~17:00(最終入場16:30)
会場:金津創作の森美術館 アートコア
休館日:月曜日(祝日の場合開館、翌平日休館)
観覧料:一般 600円(400円)、65歳以上・障がい者 300円、高校生以下 無料
展覧会訪問前に気になるアレコレまとめ
撮影可否:静止画・動画の撮影 可能
入館予約:不要
会期中展示替え:なし
音声ガイド:なし
図録:定価 : 3,300 円
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