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美術館の「暗闇ツアー」に参加したら、普段の展覧会では見えないものが見えてきた。(玉山拓郎:FLOOR|豊田市美術館)

「夜の美術館」って聞いたら、なんだかわくわくしませんか?

豊田市美術館 外観

美術館といえば、ふつうは昼も夜も同じ明るさで作品が鑑賞できる場所。でも、愛知の豊田市美術館で開催中の「玉山拓郎:FLOOR」展は、ほぼ自然光だけで展示が行われ、時間帯によって見え方が変化していく展覧会です。

そんな展覧会で、担当学芸員による「暗闇ツアー」というユニークなツアーが開催されたので参加してきました。この展示では、ツアーでなくても夕方の時間帯に訪れれば、自分のペースで暗くなっていく空間を体感できます。


まずは、日中の明るい展示室を鑑賞。

作品はひとつだけ? 2フロア・5展示室にわたる巨大なインスタレーション

「玉山拓郎:FLOOR」は、現代アーティスト・玉山拓郎さんの個展。玉山さんは、1990年生まれ、岐阜県多治見市出身のアーティストで、光や空間を巧みに扱ったインスタレーションを制作しています。

最近ではGINZA SONY PARKで、ライトを使った作品を地下から地上2階まで貫くように展示し、光て建築のボリュームを表現する作品を発表しました。

「ART IN THE PARK (工事中)」(Ginza Sony Park)の玉山拓郎作品 展示風景

そんな玉山さんの今回の作品は、たったひとつの巨大なインスタレーション。展示の紹介を見たときは「ひとつの作品だけ?」と戸惑いましたが、実際に足を運んでみると、2フロア・5展示室を使った作品のスケール感に圧倒される展示でした。

美術館の「建築」と「作品」の境界が曖昧になっていく

最初の展示室に入ると、目の前には鉄の塊のような巨大な構造物がそびえ立ち、低く響く音が空間を満たしています。

玉山拓郎:FLOOR(豊田市美術館)展示風景

展示室内に作品に関する説明は一切なし。この構造物がなんなのか分からないまま近づいてみると、一見、鉄のようにも見えたこの物体は、実は絨毯のような柔らかい質感。

近づいてみると、柔らかそうな質感です。

展示室を移動していくと、それが壁を突き抜け、階段を越え、建物全体に広がっている様子に気づきます。

壁を貫通するような作品

確かに「ひとつの作品」ですが、それは美術館の空間全体を巻き込んだスケールの大きなインスタレーション。美術館の建築そのものが、作品の一部のようです。

作品は複数の展示室を貫いていきます。作品の下をくぐって移動します。

作品を通じて見えてくる 谷口吉生建築の魅力

さらに、この展覧会のもうひとつの魅力は、ほぼ自然光のみの展示になっていること。照明が使われているのは、たった1箇所だけ。

天井や白いガラスの壁面から入るやわらかい光が、空間を照らし出します。

三面が白いガラスで囲まれた展示室。たっぷりと柔らかい光が入ります。

普段は「作品」をメインに見てしまいがちですが、この展示では、作品を通じて「美術館の建築そのもの」が視界に入ってきます。

唯一の人工照明を使った展示室。大きな作品の絨毯が足下に。”目で触れて”きたものを”足下の感触”で体験できます。

「あれ?こんなところに天窓があったんだ」「自然光だけなのに、こんなに明るく感じるんだ」など、何度か訪れた美術館ながらも新しい発見があり、光を取り入れた建築の魅力を再発見できました。

4つの天窓から光が差し込む展示室。

17時。いよいよ「暗闇ツアー」へ。

そして17時、いよいよ「暗闇ツアー」がスタート。すでに外は夕暮れになり、館内の壁面も赤く色づいて見えます。

夕日の赤い光が差し込みます。

日中は自然光だけでずいぶん明るく感じた展示室も、薄暗くなり、人の顔も見えづらいほどに。壁に映る光の色も、夕日の赤から青っぽい色へと刻々と変わっていきます。

作品の雰囲気も、日中とは変わって見えます。

日中は均一に見えていた光も、方角によってすこしずつ色が違って見えたり。わずかな光の違いにも敏感になっていきます。

日中はとても明るかった三面が窓になった展示室も、薄暗くなっていました。

日が落ちた展示室はほぼ「真っ暗」。でも、その空間を、普段は気づかない非常灯の灯りが照らしだします。非常灯の灯りも、それぞれちょっと色が違う…なんて、普段なら絶対に気づかない違いも見えてきました。

左右でちょっとだけ色が異なる非常灯。

また、印象的だったのは、美術館の階段に常設されたジェニー・ホルツァーによる電光掲示板の作品。日中はあまり意識していませんでしたが、暗闇の中ではとても強い光を放ち、隣接する展示室を照らし出していました。

左側の赤い光は、ジェニー・ホルツァーの電光掲示板作品の光。これほど明るい光だったとは、日中には気がつきませんでした。

非常灯の光によって、美しい影も見えてきます。監視員の方に「ここの影も素敵でしょう?」と教えてもらったり。作品そのものではないところにも、見る人がそれぞれに面白さを見つけていくような体験でした。

展示室のさまざまな場所で、光と影の面白さに気づきます。

担当学芸員さんからは、「暗闇ツアー」について、「普段とはちがう展示室で、”光をボリュームとして扱うことで空間をとらえなおす”玉山さんの作品がどのようにあらわれるのかを体験する」という、今回のツアーの趣旨をご説明いただきました。

まとめ:暗闇の中の作品を通じて見えた、光と建築の美しさ

たった30分。あっという間の「暗闇ツアー」でしたが、その短い時間にも、空間の明るさや色合いが刻々と変わっていくことを体験できるツアーでした。

17:30。閉館時間になり外に出ると、ライトアップされた美術館が夜空に美しく浮かび上がっていました。

ライトアップされた豊田市美術館。

普段は昼間にしか訪れないことが多い美術館ですが、夜の時間帯にこそ見えてくる美しさもあることを実感できる展覧会です。

ライトアップされた外観の光と影のようすも美しかったです。

展覧会を見終わった後には、日常の風景の中の光にも敏感になり、身の周りの風景の中にある魅力に気づいていけるのも面白い作品でした。

美術館の帰り道の風景も、普段よりも面白く見えてきます。

「作品」だけでなく、「建築」や「光の変化」もを楽しめる展覧会。「暗闇」は今の時期はツアーでなくても観ることができるので、昼の展示と比較して鑑賞してみてはいかがでしょうか?

展覧会概要 玉山拓郎:FLOOR

URL:https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/tamayama_takuro

会期:2025年1月18日[土]‐5月18日[日]
開館時間:10:00-17:30[入場は17:00まで]
休館日:月曜日[2月24日、4月28日、5月5日は開館]
観覧料:
当日窓口販売 一般1,200円 高校・大学生1,000円 中学生以下無料
オンライン販売 一般1,000円 高校・大学生800円 中学生以下無料

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ぷらいまり。
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