【プラントベースダイエット】 タンパク質はどこから摂るの?
プラントベースダイエットでは、肉・魚・卵・乳製品といった動物性タンパク質の摂取を避けることが推奨されています。そして、この話をすると「肉や魚を食べずにタンパク質はどこから摂るの?」、「動物性のタンパク質を摂らないと健康を維持できないのでは?」といった疑問が持ち上がります。タンパク質摂取の重要性を認識している人は多く、動物性食品はその重要な供給源として知られているため、これは無理もありません。
しかし、私たちが健康を維持するためには動物性タンパク質を摂らなければならないのでしょうか?プラントベースダイエットでは、身体が必要とするタンパク質を十分に摂ることができないのでしょうか?
この話をする前に、タンパク質とは何かというお話をしましょう。タンパク質とは、炭水化物、脂質と並んで身体のエネルギーとなる三大栄養素と呼ばれる栄養素の一つです。筋肉だけでなく骨や皮膚、毛髪といった全身のさまざまな組織を構成するのに使われるため、身体にとって非常に重要であることはよく知られています。体内に入ったタンパク質は、アミノ酸と呼ばれるより小さい単位に分解された後に吸収されますが、必須アミノ酸と呼ばれる9種類のアミノ酸は体内で合成されないため食事から摂取する必要があります。必須アミノ酸をすべて含むタンパク質は完全タンパク質と呼ばれており、これは身体が効率よく利用できることから一般に良質であると考えられています。肉、魚、卵、乳製品といった動物性食品は、その代表的な供給源です。その一方で、必須アミノ酸のうちいずれかを欠くタンパク質は不完全タンパク質と呼ばれており、豆類、穀物、野菜、果物といった多くの植物に含まれるものがそれに該当します。
では、私たちはタンパク質をどれくらい必要としているのでしょうか。米国農務省(USDA)が公表しているガイドラインによると、成人の一日推奨量(RDA)は体重1㎏に対して0.8gです(女性で46g、男性で56g、小児および妊娠中または授乳中の女性にはより多くの量が推奨されます)1。このRDAと呼ばれる基準では、母集団の97.5%が必要な栄養を満たせるように考慮された数字が用いられています。つまり、体重1㎏に対して0.8gのタンパク質を一日に摂取しておけば、大多数の人は十分なタンパク質を摂取できるという推定の上で設定された数字です。
本題に戻りましょう。ここまでの情報で、動物性タンパク質を食事に取り入れれば、必須アミノ酸を簡単に摂取できることはお分かりいただけたでしょう。多くの植物は必須アミノ酸を欠いていることから、健康を維持するためにはやはり不十分なのだと考えた方もいるかもしれません。不完全タンパク質という呼び名からも、一般にそのように考えられている傾向もあります。
しかし、植物のみで身体が必要とするタンパク質を満たせないというのは大きな誤解なのです。
動物性タンパク質を含まない食事からでも必要なタンパク質を簡単に満たせることは、USDA 2や栄養と食事のアカデミー(10万人以上の栄養の専門家がいるアメリカ最大の栄養士会)3, 16によって明確に示されています(必要なカロリーが十分に満たされている場合)。過去には、植物のみから必須アミノ酸をすべて摂取するためには、「豆と米」のように不完全タンパク質を一食内で組み合わせて摂る必要があると考えられていましたが、最近では肝臓でアミノ酸を保てることがわかっていることから、一食ではなく一日の中で組み合わせて摂ればよいと考えられています4。植物性のタンパク質を摂取するために特別な加工品を取り入れる必要はありません。大豆、レンズ豆、ひよこ豆、豆腐、キヌア、ピーナッツバター、豆乳、ほうれん草、ブロッコリーなどは、いずれもタンパク質を多く含む植物性の食品です5。野菜、豆類、穀物、ナッツ、シードなどから食材を幅広く取り入れることで、動物性食品を摂らなくても十分なタンパク質を簡単に摂取することができるのです。
多くのアメリカ人は一日推奨量(RDA)以上のタンパク質を摂取していると言われており、不足は問題ですらありません。タンパク質の過剰摂取は、腎機能低下6、腎臓病・腎結石17、心血管病リスクの上昇17、体重増加17、便秘または下痢17、がんのリスク上昇17、そして骨粗しょう症7とも関連付けられていることから、やみくもに多く摂取すればよいというものでもありません。一般的な日本人のタンパク質摂取量は一般的なアメリカ人の摂取量よりも少ないと考えられますが、特に気を付けたいのはタンパク質を大量摂取する傾向にあるアスリートです。アスリートは大きな代謝ストレスにさらされるため、アスリートではない人よりも身体はより多くのタンパク質を必要とします。
動物性のタンパク源は、多くの場合、脂質を含みます。そのため、タンパク質だけ多く摂取しようとする人は、いかに脂質を避けるかという部分に注目して、鶏のささみや卵白といった脂質が少なくタンパク質を多く含む食品の摂取を試みます。同じ理由からプロテインのサプリメントを使用する人もいます。プロテインのサプリメントを使えば、脂質や糖質の摂取量を抑えてタンパク質を摂取することが可能だからです。
米国栄養士会・カナダ栄養士会・アメリカスポーツ医学会の見解によると、持久力を要するスポーツや筋力トレーニングを行うアスリートでは一日に1.2~1.7g/体重(kg)のタンパク質摂取が推奨されています8。この量は一般集団で推奨されている量よりも多いですが、最も多い量でも通常、食事のみで満たすことが可能であり、プロテインのサプリメントは必要ないとされています9。食事量が増えればタンパク質の摂取量は自然に増えるため、食事で必要なカロリーを満たしているアスリートにおいてタンパク質不足は非常に起こりにくいことなのです。また、トレーニングをしている人が筋肉をつけて維持することを目的とした場合にどれくらいのタンパク質を摂取すべきかを調べた研究でも、上限は1.8g/体重(kg)と示されており、それ以上の量を摂取しても筋肉の成長や維持に意味をなさないという結果が出ています10。
身体が効率よく利用できる動物性タンパク質は、成長や筋肥大といったプロセスを助けます。つまり、細胞の成長を促すということです。しかし、細胞が成長する過程では、がん細胞の始まりのようなエラーが起きることがあり、そのようなエラーが起こった場合、動物性タンパク質はそのエラーも加速させてしまうと考えられています14。また、世界保健機関(WHO)の研究機関である国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer : IARC)は、加工肉の摂取による大腸がんリスクの増加や、レッドミート(哺乳類の肉)の発がん性との関連を指摘しています15。ホエイなどの動物性のプロテインサプリメントは酸を生成することから、炎症を引き起こしたり、回復を遅らせたりといったアスリートが一般に望む効果とは逆の効果をもたらす可能性が高いこともわかっています11。プロテインのサプリメントは、ボディビルディングなどの競技において効果的に利用されることや、特定の疾患において治療目的で使用されることもありますが、その使用にはこのようなマイナス面もあると言えるでしょう。プロテインのサプリメントを使用する場合は、植物性のものを選ぶことが、これらのリスクを回避する方法の一つです。
また、運動後に身体が必要とする栄養素はタンパク質だけではありません。運動によってダメージを受けた細胞を回復させるには、タンパク質だけでなく、炭水化物やビタミン・ミネラルなどさまざまな栄養素が必要です。身体が必要とする脂質の量を超えることなく、タンパク質を初めとして身体に必要な栄養素をもっともバランスよく供給してくれる食品は、鶏のささみでも卵白でもありません。野菜や豆類、穀物、果物といった植物なのです。植物性食品を取り入れることで、タンパク質だけでなく身体が必要とするその他多数の栄養素も同時に取り入れることが可能になります。
アメリカ人の97%では食物繊維が不足していると言われています12。また日本における調査結果でも、食物繊維の一日当たりの平均摂取量は目標量に達していないことがわかっています13。食物繊維の摂取量が一日の推奨量に満たない場合、心臓病、がん、糖尿病、肥満症、その他の慢性疾患のリスクが高まります。動物性食品には食物繊維が含まれていないので、必要とされる食物繊維を摂るためにも植物性食品を積極的に摂取することが推奨されます。
体重1㎏に対して0.8gというタンパク質の一日推奨量は、一日に推奨される摂取カロリー全体の8~10%に相当しますが、ホールフードプラントベースダイエットを実践すると、タンパク質の摂取量は自然とその数字に近づくので、食事に制限をかけたり、サプリメントを使用する必要がなくなります。言い換えると、動物性食品の摂取が増えると、このパーセンテージからかけ離れていくため、健康を維持するために食事に制限をかけたり、サプリメントを使用して数字を調整する必要が出てくるのです。
プラントベースダイエットではタンパク質が不足すると考えられがちですが、さまざまな食材を組み合わせることで身体が必要とするタンパク質を十分に摂取できるだけでなく、健康面でメリットが得られることがお分かりいただけたでしょうか。アメリカでは近年、アスリートを含めプラントベースの食事に切り替える人が増えてきていますが、これは理にかなっていると言えるでしょう。タンパク質摂取の重要性は大きく注目されていますが、豆類、野菜、穀物、ナッツなどを豊富に取り入れた食事をすれば、タンパク質はもちろん、その他のさまざまな栄養素もきちんと満たすことができるのではないでしょうか。
1. http://www.nationalacademies.org/hmd/~/media/Files/Activity%20Files/Nutrition/DRI-Tables/8_Macronutrient%20Summary.pdf?la=en
2. https://choosemyplate-prod.azureedge.net/sites/default/files/tentips/DGTipsheet8HealthyEatingForVegetarians.pdf
3. https://vegetariannutrition.net/docs/Protein-Vegetarian-Nutrition.pdf
4. http://comenius.susqu.edu/biol/010/tobin-janzen/nutrition%20for%20everyone_%20basics_%20protein%20_%20dnpao%20_%20cdc.pdf
5. https://www.vrg.org/nutrition/protein.php
6. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12639078
7. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11124760
8. https://www.andeal.org/vault/2440/web/200903_NAP_JADA-PositionPaper.pdf
9. https://www.vrg.org/nutrition/protein.php
10. https://pdfs.semanticscholar.org/18d8/664fc236494e5fbb7e2372e73c349c43d208.pdf
11. https://www.plantbasednews.org/post/busting-protein-myth-athletes-need
12. https://ucdintegrativemedicine.com/2015/05/forgotten-fiber/#gs.SExei5wz
13. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
14. https://www.health.harvard.edu/diet-and-weight-loss/when-it-comes-to-protein-how-much-is-too-much
15. https://www.iarc.fr/wp-content/uploads/2018/07/pr240_E.pdf
16. https://www.eatrightpro.org/~/media/eatrightpro%20files/practice/position%20and%20practice%20papers/position%20papers/vegetarian-diet.ashx
17. https://www.health.harvard.edu/diet-and-weight-loss/when-it-comes-to-protein-how-much-is-too-much