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三角函数のn倍角の公式の複素数による導出

 以前の授業で、生徒さんが自ら発見したものである。
 今日の授業で思い出すのに時間がかかったので、ここに記録する。

2倍角の公式:3つの証明

$$
\cos2\theta=2\cos^2\theta-1
$$

 2倍角公式の証明は、思いつく限り三通り存在する。いずれも、加法定理の二つの角を同じにしたものだ。 

  1. 幾何学的証明

  2. 行列による証明

  3. 複素数による証明

幾何学的証明

 下図は加法定理のものだが、$${\alpha=\beta}$$とすれば直ちに倍角の式が得られる。

加法定理の幾何学的証明

行列による証明

 回転行列$${R=\begin{pmatrix}\cos \theta & -\sin \theta \\\sin \theta & \cos \theta \\ \end{pmatrix} }$$を用いて、$${R^2=\begin{pmatrix}\cos2\theta & -\sin2\theta \\\sin2\theta & \cos2\theta \\ \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos^2 \theta-\sin^2\theta & -2\cos\theta\sin\theta \\2\cos\sin \theta & \cos^2 \theta-\sin^2\theta \\ \end{pmatrix}}$$の成分が等しいことから導く。

 余弦$${\cos^2}$$に関しては、三平方の定理$${\cos^2+\sin^2=1}$$と組み合わせ、$${\sin}$$又は$${\cos}$$のみの式で表すことができる。その結果が冒頭の倍角公式$${\cos2\theta=2\cos^2\theta-1}$$だ。

複素数による証明

 複素数$${z=\cos\theta + i\sin\theta}$$が角$${\theta}$$回転であることを利用する。以下、簡単の為、係数$${1}$$の$${\theta}$$の場合を$${\cos\theta=c, \sin\theta=s}$$と略記する。

$$
z^2=(c+is)^2=(c^2-s^2)+i(2cs)
$$

 実部虚部比較により直ちに、$${\cos2\theta=c^2-s^2}$$,$${\sin2\theta=2cs}$$が得られる。

n倍角の式の複素数による導出

 以下、正弦$${\sin}$$に関する式は同様に導出可能であり原則として省略する。複素数手法によりn倍角の式を求める。

$$
z^n=(c+is)^n=\sum _{r=0}^{n}  {_n}C_rc^{n-r}(is)^r
$$

 このように二項展開となる。この結果さえ得られれば、あとは三平方の定理$${c^2+s^2=1}$$でいずれかを消し、$${\cos n\theta}$$は$${c}$$だけに、$${\sin n\theta}$$は$${s}$$だけに整える作業に過ぎない。

n=3のとき(3倍角の式)

 $${n=3}$$なら、

$$
\begin{align*}
z^3&=(c+is)^3\\&=c^3+3c^2(is)+3c(is)^2+(is)^3\\
&=(c^3-3cs^2)+i(3c^2s-s^3)
\end{align*}
$$

 実虚部比較により$${\cos3\theta=c^3-3cs^2,\sin3\theta=3c^2s-s^3}$$が得られる。

$$
\cos3\theta=c^3-3cs^2=c^3-3c(1-c^2)=4c^3-3c
$$

一般的なnの場合

 二項展開の式を再掲する。

$$
z^n=(c+is)^n=\sum _{r=0}^{n}  {_n}C_rc^{n-r}(is)^r
$$

 $${\cos n\theta}$$に関しては、上式の実部のみを取り出すこととなる。
 虚数単位$${i}$$部分が偶数乗となるものが実部となるので一旦それを取り出す。総和$${\sum}$$の取り方に工夫を要する。
 $${n}$$が偶数なら、$${r=2k(k=0,1,\dots,n/2)}$$で総和は完結する。

$$
\begin{align*}
\cos n\theta
&=\sum _{k=0}^{n/2}  {_n}C_{2k} c^{n-2k}(is)^{2k}\\
&=\sum _{k=0}^{n/2}  {_n}C_{2k} c^{n-2k}(-1)^{k} (s^2)^{k}\\
&=\sum _{k=0}^{n/2}  {_n}C_{2k} c^{n-2k}(-1)^{k} (1-c^2)^{k}\\
\end{align*}
$$

 複雑になってきた。二項展開が入れ子になる。

$$
(1-c^2)^{k}=\sum_{j=0}^{k}{_k}C_j(-1)^jc^{2j},\\
$$

なので、

$$
\begin{align*}
\cos n\theta
&=\sum _{k=0}^{n/2}  {_n}C_{2k} c^{n-2k}(-1)^{k} \sum_{j=0}^{k}{_k}C_j(-1)^jc^{2j}\\
&=\sum _{k=0}^{n/2}  \sum_{j=0}^{k} (-1)^{k+j} {_n}C_{2k} \cdot {_k}C_j  \cdot c^{n-2k+2j}\\
\end{align*}
$$

ここでやめよう。

 試しに$${n=2}$$を代入してみる。

$$
\begin{align*}
\cos 2\theta
&=\sum _{k=0}^{1}  \sum_{j=0}^{k} (-1)^{k+j} {_2}C_{2k} \cdot {_k}C_j  \cdot c^{2-2k+2j}\\
&= \sum_{j=0}^{0} (-1)^{j} {_2}C_{0} \cdot {_0}C_j  \cdot c^{2+2j}+\sum_{j=0}^{1} (-1)^{1+j} {_2}C_{2} \cdot {_1}C_j  \cdot c^{2-2+2j}\\
&= c^{2}+(-1)^{1+0} {_2}C_{2} \cdot {_1}C_0  \cdot c^{2-2}+(-1)^{1+1} {_2}C_{2} \cdot {_1}C_1  \cdot c^{2-2+2}\\
&= c^{2}-1+ c^{2}=2c^{2}-1\\
\end{align*}
$$

 一致した。
 $${n}$$が奇数のときは、$${n-1}$$で同様の作業を行い、最終和を加えることになる。

 $${\cos^n \theta}$$の係数が数列でうまく表せれば良いが、今回はここまで。

 $${\cos n\theta}$$を$${\cos\theta}$$のみを部材として表現したいという試みであったが、要するに二項展開して変換すればよいのであって、二項係数はパスカルの三角形ですぐに作れるので符号に注意して個々に当たるのが得策であろう。 


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