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オーストリアの美大(Kunstuniversität Linz,Bildende Kunst・リンツ工科造形芸術大学,視覚芸術科)に合格するまで

去る2021年7月9日、オーストリアのリンツにあるKunstuniversität LinzのBildende Kunst科に合格しました。(僕の場合は、2022年に別のドイツの美大を受験して、合格できたらそちらに入学する予定です。)

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、2021年冬学期入学のオーストリア・ドイツの美術大学の入試は基本的にどこもオンラインで受験ができるように変更がなされました。(コロナ前までは現地での受験のみでした。)次の入試は2022年冬学期入学で、その際も今回に引き続きオンライン形態での入試になるか否かは不透明な部分がありますが、あらゆる国からの受験生を受け入れるのが、欧州の美大ですので、各国の事情を鑑みて次回もオンライン形態になるのではないか…と思っています。(願っています。)

この記事は入試体験談のようなものになると思います。事前情報として、僕の情報を少しだけお伝えします。僕は2021年3月に新宿にある東京都立総合芸術高校美術科の油画専攻を卒業し、池袋にある創形美術学校ドイツ美大受験対策コースに、大学入学共通テストが終わった2021年2月ごろから週2回で通って、ドイツ語圏の美大の情報や受験、制作のアドバイスを得ていました。

僕は都立高校を卒業して美大を受験しましたが、高卒でドイツ語圏の美大を受験するという人がほとんどおらず、情報集めに困ったということもあるので、まずは高卒に沿った説明をしていきます。

①高校在学中にやっていたこと

・実技(作品作り)

ドイツ語圏美大(以下、ドイツ美大)の受験においては、日本の美大を受験するときに必要になるようなデッサン力はさほど求められません。創形での様子を見ていると、日本で美術教育を受けたことがない人でも美大受験にチャレンジし、合格している方も多数いらっしゃいます。

もちろん、ドイツの美大受験でもある程度の作品のクオリティは求められると思いますが、それは1年ほど集中して作品制作をしていれば自然と身に付くものでもありますし、あまり深くことではないと思います。ただ、僕の場合は美術科出身のため、日本の受験デッサンの基礎をやってきていたり、作品制作の経験があるという事もあり、作品のクオリティは最低限あったように思えます。それもあって、高校卒業から3ヶ月で合格することができたのかもしれません。

普通科の高校に在籍している方は、後述する共通テストの勉強やドイツ語の勉強をすると良いと思います。(同級生も学校も共通テスト対策ばかりやったりするでしょうし。)もし、作品制作もする場合、大切になってくるのは「自分が何に興味を持っているのか」を明確にすることだと思います。どうして、この作品を作ったのか?何を考えたのか?など、そういったことを自分の言葉で明確にできると、その後の制作が楽になるかもしれません。

・語学(ドイツ語)

1月の大学入学共通テストの勉強や、高校の卒業制作、授業や専攻の課題などで思うようにドイツ語の勉強が進まず、僕は高校卒業の段階でA2の勉強が半分終わったくらいのレベルでした。ゲーテのA2資格を取得したのも高校卒業後の7月です。美大受験の1年前からドイツ語を勉強し始めるのだと、かなり遅いスタートかつ、キツくなると思うので、僕は高2の1月からドイツ語教室に週1で通い始めました。

・大学入学共通テスト

創形の先生に、大学に提出できる書類は多い方が良い、とのことで念の為共通テストも受験しました。科目は「外国語(英語リーディング、リスニング)、国語(現・古漢)、公民(現代社会)」の3科目で受験しました。

2020年度は、センター試験から移行した新しい共通テストの第1回目の年度で過去問がなく、コロナもあり、国語の記述式が突然見送りになったりと、かなり苦労した世代だったと思います。高校に行くときの通学電車では毎朝英単語帳を開き、隙間時間には漢文の句形を覚え、古典単語を覚え…あたかも日本の大学を受験するような様相でしたが、どこも受験しません。そして、その無意味さみたいなものが、僕の場合モチベーション低下に大きく響きました。芸術高校では、皆美術予備校に通うばかりで、共通テストをきちんと勉強して受験するような人は殆どいなかったのでそれもあったかもしれません。(それでも、競う唯一の仲間ができたので支えにはなりました。)

共通テストの結果は3科目で7割弱でした。本番前夜に緊張で寝れず、ぼーっとした状態で第一科目の国語を受けてしまい、5割をとってしまいました。他科目は75%前後でした。ちなみに競っていた人は本番1週間前から睡眠時間の微調整やマインド管理を徹底し、本番で9割越えを叩き出して早稲田大学に合格しました。勉強量の差が一番大きいですが、本番最後焦らないためには直前以外での努力を怠っては駄目だなと痛感しました。これは美大受験においても同じことです。

つまり、練習は本番のように。本番は練習のように。です。

・展示を見に行く

これは、僕にとっては受験関係なく行ってきたことですが、展示を見にいって良い作品を見に行った方がいいです。僕は共通テストが終わった後は溜まったストレスを吐き出すかのように展示を見たり、映画を見たり、色々しました。画集を見たりするのも良いかもしれません。

東京や大阪などの都市圏に住んでいる人は、ギャラリーが近くにあるかもしれません。美術館と違ってギャラリーはマーケットの一部なのでお金を取りませんし、作品鑑賞にはもってこいです。美術手帖のHPから検索すると色々見つけられると思います。

②高校卒業後〜美大出願前(ポートフォリオ制作)

・作品制作

高校を卒業するまでは、高校のアトリエ(美術科だったので)を使って制作ができたのですが、新型コロナの影響もあり、なかなか制作スペースを確保できませんでした。結局、高校を卒業したあとは、基本的に創形美術学校のドイツ美大受験クラスに通うことで、制作環境を確保していました。

しかし、学校に通う以上当たり前のことですが、学費がかかります。決して安くないです。これはリンツ美大に合格した後のことですが、8月〜11月は入試シーズンではないこともあり、現在僕は創形に通うのはやめて、ドイツクラスの同じ先生が運営しているオンラインクラスに移行しました。

ただ、入試が控えている状況においては、直接対面でのサポートを受けた方が確実でしょうし、心強いです。また、作品制作の経験があまりない方も対面の方が確実な指導を受けることができると思います。もちろんオンラインでも可能ですが、初心者でもスムーズに制作できるかどうかはわかりません。僕も入試シーズンが再開する11月〜12月ごろからは、再度創形に通う予定です。

ぼくは絵画科を受験するので(具体的に決まってない人は、授業を重ねていく中で徐々に決めていきます。)ドローイングをたくさん描きました。高校ではコンセプチャルな作品を制作していたので、作品が硬くなりがちでしたが、ドローイングをたくさんやることによって、程よいバランスを保った作品を作れるようになってきたような気がしています。

また、創形では画材は自分で持ち込むのが基本ですが、お試し程度だったら創形にあるアクリル絵の具等を使うことができます。上限はありますが、十分すぎるほど紙(サンフラワーM画とケント紙)も支給されますし、共用の備品(工具、筆、水洗バケツ、テープ、カラープリンター、PCなど)も使うことができます。これがかなり助かります。

・ポートフォリオ(マッペ)

ドイツの美大入試では原則、1次試験の出願時にポートフォリオ(マッペ)を提出します。

リンツ美大を受けた感想にもなってしまいますが、合否はほぼほぼポートフォリオの出来と実技試験の作品で決まっているような気がします。これはあまり良い話ではないのですが、面接をするときもポートフォリオが良かった人とそうでない人で分けて、面接する前から大体合格者が決まっているような印象を、少なくともリンツ美大の受験では受けました。如何に日頃が大事かってことだと思います。

美大受験にあたって、そのポートフォリオに載せるための作品を日頃から作っていくわけですが、僕がリンツを受けた時(6月)はあまり作品数も多くなかったため、高校時代の作品や卒業制作などもポートフォリオには載せました。

リンツ美大のポートフォリオ提出は、データ(PDF)の容量上限が15MBとなっています。また、CVだけ別のPDFに出力して提出です。僕が作ったポートフォリオの具体的な構成としては…

①CV(プロフィール)が1ページ

②Konzept(コンセプト)が1ページ

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③作品(ドローイング)が10ページ(作品)程度

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④作品(大きめの作品など)が10ページ(作品)程度

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⑤制作メモが3ページ程度

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また、ポートフォリオの最後には、載せきれなかった制作メモやスケッチをペラペラめくる動画をアップロードしたYouTubeへのリンクを貼りました。

ポートフォリオ制作にあたっては、Macなら無料でついてくるアプリ「Pages」で編集しました。ただ、扱いが簡単そうに見えて案外、使い方に慣れていないとページの入れ替えで苦戦することがあるので、怖い人は別のアプリでもいいと思います。とにかく、最終的に15MB以内のPDFになればOKです。

編集する上で大事なのは、なるべく作品を「大きく、綺麗に」見せることです。

リンツ美大はポートフォリオの作品数については特に言及がなく、「15MB以内のPDF」としかありませんでしたが、学校によっては「20作品以内」や、CVとコンセプトと作品とで別々のPDFに出力して提出(フランクフルトのStädelschuleがそうでした。)になったりします。リンツはCVだけ別のPDFに出力です。

(リンツ美大入試情報の詳細・ドイツ語)

こういうHPに書いてあるドイツ語は本当にわからないので、Google翻訳頼みです。ちなみに、DeepL翻訳という非常に優れた無料の翻訳サイトもあるので、使ったことがない人は試してみてください。難点はアップロードでPDFの翻訳ができないことくらいです。

・語学(ドイツ語)

高校の時と同じく、地元のドイツ語教室に通っていましたが、週1を週3に切り替えました。ドイツ語で喋ったり聞いたりする練習をたくさんしています。リンツ美大の受験とほぼ同時期にゲーテのA2の試験を受けましたが、試験において大切になってくるのは単語力です。そして、これは試験直前にやってもあまり意味を成しません。試験が直前でない今こそ、単語帳を開いて勉強をしましょう。

日本語の本で、ゲーテA2対策のものはほとんどありません。なので、ぼくは独検3級用の単語帳を紀伊国屋書店で買って勉強しました。

赤シートで隠して覚えるタイプです。載っている単語を全て覚えていれば、A2のリーディングはかなり楽に読めると思います。

完全に独学でドイツ語を勉強する方もいると思います。簡単ではありませんが、もちろん可能です。その場合、とてもわかりやすい文法書があるのでそちらもここで紹介しておきます。

この本は、英語の文法との比較でドイツ語文法を教えてくれます。あまりにも英語文法の基礎(中学校レベル)がない人には向かないかもしれませんが、そうでない人にはおすすめの一冊です。

これは、この本に関係なく言えることだと思いますが、英語とドイツ語で文法での共通点がそれなりにあるので、英語の文法を知っている人は、そうでない人よりも比較的ドイツ語が勉強しやすいのではないか?と感じます。

リスニングのおすすめ教材はこちらのYouTubeチャンネルです。

英語との対訳があって、わかりやすいです。

③出願(1次試験・ポートフォリオ提出)

締め切り(2021年の場合);6月18日

②で作ったポートフォリオをここで提出しますが、その前に、出願には入試ポータルサイトで個人アカウントを作って登録し、情報を打ち込む必要があります。(僕は6月14日にやりました。)

ここから登録ができます。(入試期間のみ)

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青い枠の一番上のリンク「Bewrber/ihnen-Account anlegen」を押します。

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次の画面ではこんなふうに入力します。Vornameはファーストネーム。つまり、山田太郎なら「太郎」です。Nachnameは苗字。つまり、「山田」です。Geburtsnameは「出生地」。生まれた場所を書きます。パスポートに本籍が書いてあると思います。

Bevorzugte Sprecheでは英語かドイツ語かを選べます。ここで選んだ言語で今後は作業ができます。僕は英語を選択しました。(画像ではドイツ語になってるけど)

最後の「Sind oder waren Sie an einer österreichischen Hochschule/Universität gemeldet?」はおそらく、オーストリア国内の大学にすでに入学しているかどうかを聞いているんじゃないかと思います。(多分)そんなわけねえよって人は「Nein」で大丈夫です。

全部書いたら、右下のDaten Bestätigen(情報の確認)を押します。そしたら、間違いがないか確認画面が出るので、確認したら「Date Abschichken」(データを送信する)を押します。

すると、登録したアドレスに確認メールが来ます。前述の「Bevorzugte Spreche」で英語を選択したので、ここからは英語になります。

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まず、一番上のリンクを押して、アカウントをアクティブにしたのち、入試登録用のアカウントを作ります。アカウント名はメールアドレスです。(合否でも使います。)

ここからは長いので、公式の英語のマニュアルのリンクをここに貼っておしまいにします。これを見れば基本的にはスムーズに登録作業が終わりますが、いくつか注意点があります。

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住所登録のページです。(東京都新宿区新宿3丁目1−1を例に書きます。世界堂本店の住所です。)streetとかstateとかRegionとか、日本では住所書くときにこれらは使いません。ので、空白にして右下の「Continue」を押そうとすると、エラーで返された記憶があります。

これは、システム上の問題で仕方がないので僕は無理矢理情報をねじ込みました。

Street,Numberは「Shinjuku3, 1-1」

Postal codeは「000-0000(郵便番号)」cityは「Shinjuku-ku」

Country,Stateは「Japan」

Regionは 「Tokyo」(色々いじると下のような変な東京を選択できました。)

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また、その下に電話番号を打ち込むところがありますが、これも注意です。国番号を入れないといけません。例えば、090-1234-5678の場合、日本の国番号は「81」なので、「+81 90 1234 5678」となります。ポイントは…

①頭文字は必ず「+81」。+も忘れないこと。

②市外局番(080や060、03など)は最初の0が抜けること。例えば、「080」なら「80」だし、「03」なら「3」になります。

こちらも参考になるかと思います。

住所登録をすると英語とドイツ語の語学力を聞かれます。(何の資格持ってんの?と。)僕はこう書きました。正しい書き方だったのかはわかりませんが、結果的に合格してるので問題なかったんだと思います。

Language Skills: German;Beginner, I am studying in B1-class.

Language Skills: English;I have an equal certificate as IELTS 5.0.

Other Language Skills;None(「なし」という意味です。)

この頃はぶっちゃけ、資格も何も持っていなかったので、ドイツ語は通っているドイツ語教室の先生にそれっぽいクラス在籍証明の紙を印刷してもらい、英語は高2の時に高校で無理矢理受けさせられたGTECのスコアを書きました。

そして最後にやっと、ポートフォリオとCVをアップロードできます。できたらおしまいです。特に確認メールなどは来なかったと思います。

④2次試験(実技)への招待メールが来る(1次合格者のみ)

6月30日に突然、2次試験への招待メールがやってきました。総受験者数はわかりませんが、1次合格数は175人っぽいです。なぜならメールがBccになっていなかったから…

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大学からのメールは全て、英語・ドイツ語の両方が記載されてやってきます。個別で問い合わせをするときも英語で問題ないです。

このメールはポートフォリオ試験通ったから実技試験に招待するね!というメールです。要約すると、

「実技試験のトピック(問題)は7月6日朝9時(リンツ時間)に送られます。そして、同時にWebex(zoomみたいなやつ)を通じて、7月7日から順次面接をやっていきます。詳細をすぐにお送りするので、メールボックスをチェックしといてね。」

です。

ここで注意点です。まず、このメールを初めてみた時、英語のニュアンスがよくわかなくて、実技試験をwebカメラオンにしながらやるのか、7月7日に全員面接があるのか、などさまざまな憶測があってよくわかりませんでした。(結果的には要約の通りです)また、「すぐに」詳細をお送りするとか言ってますが、大嘘です。7月5日に詳細は送られてきました。試験は7月6日からなのに、ですよ、、?

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これも意味がわかりませんでしたが、結論だけ書きます。

「面接試験は7月7日水曜日の朝9時半(リンツ時間)から始まって、あなたはCグループです。添付したファイルに、あなたのグループの面接開始時間が書いてあるので、その時間に以下のリンクからwebex(Zoomみたいなやつ)にアクセスしてください。面接は一人当たり10−15分です。」

・面接でいうことを決める

この7月6日にメールが来るまでのハラハラ期間、ひとまず面接があることだけはわかっていたので、想定される質問をいくつか準備して、ドイツ語・英語の両方で答えられるように準備していました。結論から言うと、面接は英語でできるので、ドイツ語で言うことを準備してくる必要はないです。

また、相手も英語のネイティブではないので、多少下手でも大丈夫です。僕が用意した質問とその回答をいくつかここに参考までに貼っておきます。

①なぜオーストリアで勉強したいのか(Why do you want to study in Austria?)
Austria is a more international country than Japan. Many students come from many countries so I think I will be able to know plenty of views of value. Also, Austria is located in the middle of the Europa so it is also the reason.
And, I have been studying German because it is the most spoken language in Europe except for English. I would like to learn both languages to communicate with a lot of people.
②なぜリンツ美大なのか(Why do you want to enroll in the Kunstuniversität Linz?)
I feel that there is an environment to create good artworks since Linz is an international city. and i think the university is international as well. I am sure that it will inspire me.
In addition, The city of Linz looks like a big city. I think it is also important for me to be active as an artist.
③大学で学びたいこと(What I want to learn at university)
Unfortunately, I don't have a experience such communicating with a foeigh people. I want to communicate with them and pursue an express as aspects of creating works. I want to be able to express my thoughts, Opinion through the making of artworks. And I would love to study its way of creating, thinking and expressing.
④好きな作家(Favorite artist)
I often see a Japanese painter, Keisuke Yamamoto. His works seem to be flat but I think there is a parthpectiv. I like such a contradiction because it makes our imagination. 
In addition, I just like colors. They used colors of green, yellow, brown and so on. It is my favorite.

この中で実際に聞かれた質問は、「②なぜリンツ芸大なのか」と「③大学で学びたいこと」、「④好きな作家」でした。

⑤2次試験(実技・面接)

・実技

実技試験前日の7月5日に、「試験は3つのトピックから1つ選ぶ選択制で行われる」的なメールがきました。そして、7月7日の15時(リンツ時間)までに、作品をメールで送ってくださいとも書いてありました。形式とかは特に書いてなかったです。

翌日、7月6日の朝9時(リンツ時間)に試験問題が送られてきました。

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前日にあったアナウンスの通り、3つのトピックから選べと言うことでした。その3つのトピックは

① „Schauspielern auch die Dinge“

② „Over the Top“

③ „Mit dem Knie denken“

でした。①の„Schauspielern auch die Dinge“は正直最後まで意味がわかりませんでした。オーストリア人のドイツ語の先生にも確認を取りましたが、意味がわからない、とのことです。誰かの格言とかだったのかもしれません。

②の„Over the Top“は英語で直訳すると「限界を越えろ」という意味ですが、スラングで「やりすぎ」という意味もあるそうです。どう解釈するかは受験生次第、ということでいいと思います。

③の„Mit dem Knie denken“も意味がわかりませんでしたが、この言葉をコピペしてググってみると、次のサイトがトップに出てきました。

リンツ美大で過去にやった展示に関連して、ヨーゼフ・ボイスが遺した言葉の一部だったようです。

„Ich denke sowieso mit dem Knie!“ Zitat: Joseph Beuys                                                                                                                                                   „Womit er meinte“, so sein Gesprächspartner Michael Schirner, „dass lineares, logisches Denken mit Kopf oder Gehirn der Komplexität des künstlerischen Denkens nicht entspräche. Deshalb denken gute Künstler kreuz und quer und um die Ecke. Und das gehe nur mit dem Knie.“ Ein derart labiler Satz fordert in Kunst und Gesellschaft zum Weiterdenken auf.

大まかな日本語訳

"いずれにしても、ひざで考えるんだ!" 対談相手のMichael Schirnerは「この言葉は、頭脳を使った直線的かつ論理的な思考は、芸術的な思考の複雑さには対応しないという意味である」という。だからこそ優れたアーティストは、角を曲がったところや斜めのところで物事を考えている。そして、その場所は膝である。こういう抽象的な文章は、芸術や社会に対して、さらなる思考を求める。

実技の作品制作にあたっては、特に画材や支持体の指定などは特になく、自由に制作して、メールで送ってね、という感じでした。期限は7月7日の15時(リンツ時間)で、問題が送られてきたのは7月6日の朝9時(リンツ時間)だったので、試験時間は30時間ということになります。

僕はこの3つのトピックからは②の„Over the Top“を選択して、作品を作りました。平面作品を作ったのですが、その制作過程を納めた動画をメインワークにしたので、平面作品自体は一応、参考程度の位置付けです。試験中に具体的に何をしたのかとかも全て作品内に収まっているので、下のリンクからぜひご覧ください。

なお、提出するPDFには、氏名と電話番号、A4サイズ半ページ以内程度の説明文をつけてくださいとありました。あんまり文法とか自信ないですが、一生懸命英語で書きました。(ドイツ語で書くにはハードルが高すぎたので。)

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締め切りの5時間前くらいには作品が完成したと思います。ただ、作品を作るだけではなくて、撮影に編集、コンセプトの文を作るなど、かなりやることがたくさんあったので大変でした。

僕の場合は最初にコンセプトの文を完成させてから、動画を作り始めました。日本時間の16時に試験開始で、問題を見て、とりあえずコンセプトを考えながら3−4時間別件の用事済ましたり夜ご飯食べたりして、20時ごろにコンセプトを書きおわり、動画を撮り始めて、初日は作品の乾燥待ちになる工程までやって就寝。(夜1時くらいだったと思います)

翌朝は7時半とかに起きて、朝ごはん食べて、14時ごろまでに作品制作は終わり、片付けは後回しにして、ひたすら動画編集をしました。そして、19時に終わって、YoutubeにアップしてPDFを完成させ、19時半に提出。という感じです。動画編集は、作業の乾燥待ちの合間などにちょくちょくデータを取り込んで、少しづつやっていって、最後間に合わなかった部分をまとめてやりました。Adobeのアプリだと重いので、無料のiMovieで編集しました。

こういうスケジュールを、試験初日の最初の段階で立てたのが、作業をスムーズに行うことができた理由の一つだと思います。

・面接(制作中)

実技試験は7月7日まで行われましたが、同時並行で面接もWebExで行われます。事前にWebExをインストールしておきます。操作方法は難しくないです。Zoomに似ていますし、見ればわかると思います。

僕の場合は、たまたま製作中に面接がダブりましたが、そうでない人もいたはずです。面接では、ポートフォリオと自分個人のことについてしか聞かれないので、今、制作真っ只中の実技試験の作品について聞かれることはありません。

事前に、メールで面接のグループと開始時間が書かれたエクセルの表を受け取ります。リストを見ると、日本人らしき名前が僕以外にも3人ほどありました。(それぞれ、芸大、武蔵美を卒業された方でした。)

時間になって、ミーティングに入室すると、まずはグループ通話のような画面に飛ばされます。待合室のようです。管理役のリンツ美大の学生が1人いて、他には4人ほど受験生がいます。1人おしゃべりな受験生(男性)がいて、リンツ美大の学生と楽しげに話していました。(英語でした。)その人はザンビア人?だった気がします。他には、フランス人っぽい女性とオーストリア人女性と、日本人女性。4人とも30代くらいに見えました。

そして、1人ずつ面接が始まります。4人いた受験生が1人ずつ、別のミーティングルームに転送されていきます。そして、自分の番になると管理役のリンツ美大の学生に名前をコールされて、変顔してグッバイ!とか適当なことかまして教授のいるミーティングルームに転送されました。

面接は、画面こそ1対1でしたが、向こう側には教授が8−10人くらいいて、話しかけてきます。おそらく大学側では僕の顔をプロジェクターか何かで壁に映しているのでしょう。そして、僕がメールで送ったポートフォリオを画面共有されて、質問をされます。(質問の内容は④で書いたので割愛します。)

面接は英語で問題ないです。相手もネイティブではないので、多少下手でもちゃんと聞いてくれます。ただ、一点、怒られてしまったことがありました。ぼくは④で書いたように、面接でいうことを紙にまとめて面接に臨んでいました。そして、ドンピシャな質問をされて、紙に書いてあることをそのまま読み上げました。

すると、「あなた、今紙か何かを読み上げてる?」と聞かれました。ドキッとしましたが、動揺したら負けなので、堂々とはい!と言いましたが、「アーティストなら自分の言葉で説明できるようにね!」と怒られました。

もう仕方ないので、自分の下手くそなセンター試験レベルの英語力を披露しました。でも、きちんと聞いてくれました。相槌を打って、うんうんと。そして、同時に少し自分の英語力に自信もつきました。意外と自分の英語、伝わるな、と。

面接が10分くらい経つと「ok。もう次のひと見ないと行けない。時間だから、また今度話聞くね。」的な話をされました。え?また面接やんの?え?って感じでよくわからないまま面接は終わりました。

面接が終わると最初の待合室みたいなところに戻され、再度リンツ美大の学生とグッパイ!して交信を切りました。次の面接のことがよくわからず、なんか明日やるとか言ってたような、言ってなかったような。やっぱ英語のリスニング力無いなあって思いました。

⑥3次試験(面接)への招待メールが来る

2次試験の面接が終わった翌日の7月8日15時54分(日本時間)に突然メールがきました。

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2回目の面接やるよ!順番はエクセル見てね!と。そして自分の番を見ると、リンツ時間の朝9時半から。ん?えーと。サマータイムで+7時間だから…

試験開始16時30分!? なんと試験まで30分しかありません。しかもこの時僕は外出をしていました。幸い家の近くだったので全速力で帰宅して、試験開始5分前にセッティングが終わりました。言うことを準備する余裕もなかったので完全にぶっつけ本番です。

⑦3次試験(面接)

ぶっつけ本番の面接。最初175人いた受験生は、順番リストを見る限りでは30人ほどしかいませんでした。1回目の時と同じ感じで面接が始まりました。(説明したので割愛します。)

面接が始まって、まず、教授から一言。あなたが送った作品(実技試験の作品。動画。)見ました。とても面白かったよ。(It was very funny!)と。外国の人に作品を褒められたのは人生初なので純粋に嬉しかったです。

すると、なんか教授たちはご機嫌が良さそうで、1次試験と同じような質問をしてきました。もちろん話は聞いてくれているのですが、正直、同じことしゃべってるだけだし意味あるのかなあと思いました。作品の出来で合否はほぼ決まっていて、形式的に面接をやっているような感じがしました。今回の面接もあっけなく10分で終わりました。

終わり側に、「明日、あなたにメールを送ります」とご機嫌良さそうに言われました。正直、これ受かっただろと少し思いました。

⑧合格発表

合格発表は出願時に登録したサイトでみれるとのことでしたが、メールを送りますと言うので、メールを待ちました。すると、7月9日の11時(リンツ時間)ごろ

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合格通知がきました。合格者数は10人(諸説ありますがそれくらい)だそうです。ポートフォリオ審査通過人数が175人で、応募者数はわかりませんが、決して低くはない倍率だったと思います。

⑨まとめ

僕はリンツ美大を受験するまでに、ドイツのニュルンベルク美術アカデミーとフランクフルトのシュテーデルシューレの2つの大学を受験しました。どちらもポートフォリオ審査で不合格になっています。

これは、美術を評価する上でつきものになることですが、作品のジャッジメントなんて、本当に人の気分次第で変わったりしてしまうものです。教授の好みがどうとか、そういう話も大いに合否に関わってくることかと思います。ですから、ドイツ美大を受験するにあたっては不合格になってもめげずに色々な大学に出願してみることだと思います。

出願も入学検定料も学費もドイツ・オーストリアの美大では無料です。なので、ぜひ精力的に受験をしてみてください。


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