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八月の光

"空気は、吸い込むと、泉の水のようだ。彼は深くゆっくり呼吸する。そして呼吸のたびに自分がこのくすんだ灰色の世界に融けこみ、怒りや絶望を知らぬ孤独や静寂とひとつになるように感じる"1932年発刊の本書は、米南部の架空の街を舞台に複雑に筋が絡み合い、疎外や孤立が浮き彫りとなる衝撃的一冊。

個人的には著者に関しては、最初に手にとったのが同じ『ヨクナパトーファ・サーガ』の『響きと怒り』で、その冒頭からの実験的で難解な文体に苦手意識を覚えていたのですが、読書会の課題本というわけで、頑張って手にとりました。

さて、そんな本書は素朴で健康的な田舎娘リーナが臨月の身で『旅に出てからひと月とたたないのにあたしもうミシシッピ州にいる』と自分を置き去りにしたダメ男を尋ねて旅をしている。意外にも?どこか明るくユーモラスに始まりつつ、そこに【自分が黒人か白人がわからない】悲劇的存在のクリスマスの殺人事件という暗さが両者に【直接的な接点をもたずに絡んでいく】内容なのですが。意識の流れはもちろん、過去に戻ったりと時系列や構造こそ入り組んでいるものの『響きと怒り』と比較しても【とても読みやすい】ことにまず驚きました。

また、どこか個性的でぶっとんだ登場人物が多い著者作ですが。今回はリーナに一目惚れした不器用で善良な中年男、バイロン・バンチの奉仕っぷりに男性として感情を安心して委ねることが出来たのも【一つの軸として良かった】やっかいな文体かつ癖のある内容で、本書もその魅力を伝えるのは【相変わらず】難しいですが。それでも著者作の中では多くの人に紹介しやすいかな?

ヘミシンクウェイと並びたつ、多くの作家に影響を与えたアメリカ文学の文豪作品に触れたい誰か、また複雑かつ技巧的な文体や構成に関心ある誰かにもオススメ。

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