現代アートを殺さないために:ソフトな恐怖政治と表現の自由
"日本のアーティストとアートピープルは真面目で弱気すぎるような気がする。繰り返しになるが、必要な理論武装をし、説明能力と交渉能力を高め、仲間を増やさなければならない。"2020年発刊の本書はポピュリズムとパンデミックに揺れる現代アート業界を俯瞰的、刺激的に説明した良書。
個人的に、おそらくはさほど熱心ではないアートファンの私ですが。それでも『あいちトリエンナーレ』や、近年加速する【表現活動への政治圧力】には、一国民として。モヤモヤと違和感があるので。本書を手にとりました。
さて、そんな本書はジャーナリストにして、研究者でもある著者が前トランプ政権の際のグッゲンハイムの"黄金の便器スキャンダル"から米国における文化戦争の歴史を解説した上で、我が国の『あいちトリエンナーレ2019』で起きた(おこされた)いわゆる"表現の不自由展"の【顛末についての意義申し立て】そして、ポピュリズム政権下において【表現活動にどれだけの規制が行われてきたか】それが新型コロナ下でさらに加速していく現在【日本のアート界はどう"戦うべきなのか?"】についても提案しているのですが。
まず、内容的には読者を選ぶというか。それなりに普段から『アートに関わっている、興味をもっている』のがやはり前提として求められる気もする本書。ただ、逆に言えば。『そういった方』であれば安易かつ過剰に煽るのではなく、丁寧かつ淡々と【厳しく指摘しつつも】奥底にはアートに関する【深い愛情ゆえの危機感が感じられる】著者の言葉は自然に共感をもって受け入れられるのではないか。と思いました。
また、門外漢ゆえのテキトーさで言わせてもらうと、アートに限らず我が国では忖度はもちろん、説明責任を果たさずに【何となく流されていく】無形文化遺産のような"空気"が良くも悪くもずっとある中で。要するに本書は至極真っ当な事。
日本のアーティストは海外と違って【国家権力に殺されたりしないし】また、よくわからない苦情が来るのは【これまでファンをちゃんと育てなかった業界の怠慢】なだけだから。弱腰にビビらず、それでも【これからは説明責任果たして】(具体的にはメールの返事やコメントはちゃんとして)【戦っていきましょう】と言っているわけで。
私の様な素人からすれば、あいちトリエンナーレしかり、近年の映画や美術館でのセクハラやパワハラといった身内で起きている事件に感しても【安全圏から声をあげたふりをしている】だけに見えるアート業界の方々に届けばよいな、でも届いても(これまで通りに)理由をつけて無視するか、忘れさるだろうな。とか、またモヤモヤと(笑)
アート好きな方、あいちトリエンナーレの顛末や新型コロナ禍での表現活動の今に興味ある方にオススメ。