あかい花
"そして彼には、この刹那を境にして自分が、この地上で自らしとげなければならぬことの何かを、完全に悟ったような気がしていた。あの燃えるようなあかい花に、世界のありとある悪が集まっていたのだ。"1937年発刊の本書は、太宰治が傾倒した事でも日本では知られる著者の表題作他、良心の灯を感じさせる傑作短編集。
個人的には、著者が33歳に自殺するまでにわずか20篇ほどの作品しか残さなかったのにも関わらず、チェーホフやプーシキンにも影響を与えた事を知り、興味を持って手にとりました。
さて、そんな本書は表題作の精神病院の花園を背景に正義感に駆られて身を滅ぼす青年を描いた表題作他、著者の従軍経験がリアル描写に活かされている一兵卒を描く『四日間』搾取される労働者二人それぞれの選択が胸をうつ『信号』生き物たちの対話を描く『夢がたり』そして、植物園の中で孤立しても自分の道を切り開くシュロの物語『アッタレーア・プリンケプス』の計5作が収められているわけですが。
最初に結論を言うと、読後感はそれぞれ違っても『その全てが傑作』と言っても大袈裟ではない【全体的な完成度の高さ】に驚かされました。それでも、収録されている作品の中ではヒューマニズム溢れるラストが印象的な『信号』そして結末は例え悲劇だとしても貫かれた意思に爽やかさを残す『アッタレーア・プリンケプス』が特に評価が高いようですが。私的にはその2作以外も充分に面白かったです。
また、作品と作家の人生を重ねるのは作家自身が【意図的に望んでいなければ】本来避けるべきだと思うのですが。それでもやはり、精神病に度々悩まされ、また暗澹たる時代に生きながらも作品には共通して【良心への訴え】が貫かれているのが感動的であるように思えました。(チェーホフ作品の翻訳で知られた神西清の訳も素晴らしいです)
傑作短編を探す人や太宰治ファンはもとより、小説を書いている人にもオススメ。
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