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ダック・コール

"画が上手というのではなかった。むしろ稚拙といえた。そして正確でもなかった。図鑑的な見方をすれば、形や色に写実が徹底しないところがあった。だがそんなことは問題ではなかった。これを描いた者の、鳥たちへの深くあたたかな愛情があった。"1991年発刊の本書はハードボイルドから幻想まで美しい6つの連作集。

個人的には本書が優れた物語性を有する小説・文芸書に贈られる文学賞【山本周五郎賞受賞作】という前情報だけで手にとってみました。(本との出会いは偶然さもたまに楽しい)

さて、そんな本書はブラッドペリの『刺青の男』にヒントを得て、冒頭で川辺や浜辺で拾った石に鳥のイメージを描く男に出会った若者が【石の鳥に魅了されて次々と見る6つの夢ー6つの物語】として読者の前に展開していくのですが。

映画撮影から密猟、脱獄囚のマンハント、漁師の漂流から観覧車からの脱走まで。それぞれの物語同士が直接的に関係しあう事はなくも、大人の男性になっても【どこかで持ち続けている自然と共にある原風景】少年心を想起させてくれて懐かしかった。

また余談的だが、いつか。いや近い目標としてキャンピングカーもとい【ブックバスの様な移動本屋で旅に出たい】そんな事も考えていることから、密猟をテーマに中年男とパチンコ名人の少年、そして施設の老婦人との交流を描く『密猟志願』は(中年男に)ドンピシャに感情移入させられて特に気に入りました。

男性的な大人のメルヘンを探す人へ。また自然や鳥をテーマにした作品好きな誰かにもオススメ。

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