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歌う船

"この船としてのあたしには、あなたたちには想像もつかないほどの肉体的力と肉体的自由があるわ。あたしは考え、感じ、息をする。(中略)あなた達とはちがっていても、あたしの身体は立派に働いているのよ"1961年から発表の短編シリーズである本書は【SFを全く読まない人も虜にし、SFマニアも納得させる】傑作SF。

個人的には、科学技術の発達で【機械と人間の融合】サイボーグ技術、トランスヒューマニズムが話題になる中、あらためて気になっていた本書。今回ようやく手にとりました。

さて、そんな本書は重度障害新生児として、そのままでは生存不可能と判断された少女が機械に接続されて成長し『殻人』サイボーグ宇宙船『頭脳船』の制御システムとして、様々な人間の相棒『筋肉』とコンビを組んで仕事をこなしつつ"歌う船"として成長していく物語なのですが。

最初に印象に残るのは(あとがきでも言及されてますが)数々の小説や漫画、アニメではどこか引け目を感じているように重たく描かれることが多い他のサイボーグ物語と違って、主人公や同じ境遇の仲間たちが全く引け目を持たず、むしろ【自分たちに誇りを持って生きている】姿でしょうか。例えそれが薬等により条件づけされた結果だとしても【生物と機械の融合】という対立を超えた人類の近未来の可能性を提案しているように感じました。

また一方で、本書で収録されたうち『あざむいた船』で残酷に明らかにされているように、普段は万能な様で船から接続を離されると五感を容易く奪われ、肉体的にも多くの弱点を抱えているわけですが。そんな彼女が最初のイケメンパートナー、DV気味なパートナーを経て(多少癖はありますが)ついには最良のパートナーと巡り合う【ハッピーエンドのラブロマンス】としてもSFガジェット抜きに本書がちゃんと成立しているのも素晴らしく。こういった部分がSFを普段読まない人にも魅力的に感じられたのかな?と思いました。

殿堂入りのSF傑作として、また攻殻機動隊などの【機械と人間が融合した】近未来作品好きな人、ちょっと変わったラブロマンス好きな人にもオススメ。

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