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日本秋景-ピエール・ロチの日本印象記

"さして意地悪な気持ちももたずに、何もかもを詳細にわたって書き綴ることが、私には愉しかった。しかもそのささいな点が、修整前の写真の細部同様、すべて事実ありのままであることは、この私が保証する"1889年発刊の本書は明治中期に訪日した仏軍人、作家による鮮やかに保存された日本紀行文。

個人的には『円紫さんと私』シリーズの一冊『太宰治の辞書』作中で、芥川龍之介の『舞踏会』が本書の鹿鳴館の描写を参考にしている。と紹介されていたのをキッカケに手にとりました。

⁡さて、そんな本書はフランス海軍士官として最終的には大佐まで昇進する一方で、勤務の間に訪れた太平洋の島々、大西洋、地中海、南シナ海などの紀行文やルポタージュを発表し【当時のベストセラー作家でもあった】著者が、1885年の神戸港、横浜港に停泊時の"秋の本州滞在"鉄道と人力車で駆け巡った体験をもとに、神戸、京都、奈良、鎌倉、東京、そして日光の様子を【自由気ままに描写している】のですが。

明治期の近代化(西洋化)によって、急速に失われつつあった"これまでの日本"を外国人が描写した本が好きで、これまでも何冊か手にとってきたのですが(例えばイザベラ・バード『日本紀行』とか)関西在住の私にとってはやはり本書第一章"京都 聖なる都"他で描かれている当時の神戸港上陸から始まる京都他の関西の様子は、【一緒に人力車《ジン》で追体験するような楽しさ】で、京都だと清水寺、北野天満宮、西本願寺、三十三間堂で著者が感じた印象はかなり興味深かった。

⁡一方で、既読のイザベラ・バード、著者他にも『共通する描写』として、好意的に描かれる子供たち、エキゾチックな美しさで描かれる女性たちに較べて『醜い容姿』と悪く描かれる当時の日本人男性には【同性として同情を禁じ得ない】わけですが(笑)一方で、これも『共通する描写』として(西洋人からすれば)貧しくとも、【とにかく笑い、明るい日本人】の様子には急速に貧しくなる現代日本人として【何だかホッと安心するような気持ち】にもなりました。

あと『第二章 江戸の舞踏会』で描かれる、既に失われた鹿鳴館での【上流階級たちのパーティーの様子】そしてこちらも現在の迎賓館赤坂離宮より前にあった仮皇居で開かれた『第九章 "春"皇后』伊藤博文招待による【皇室主催の花の展覧会】の描写は【資料としても貴重】で、特に前半の鹿鳴館のエピソードを芥川龍之介が執筆参考にしたのも頷ける気がしました。

明治期に『失われた日本』に想いを馳せたい人、また若いフランス海軍士官の眼差しに重ねてタイムトラベルするかのように【ジャポニズム】を感じたい人にもオススメ。

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