銀の匙
病弱だった"私"に薬を飲ませる為の銀の匙を"ひきだし"から見つけるところから、過去の少年時代を語り出す本書は、師匠でもある夏目漱石氏が【小説としては事件が起きないので俗物はほめないと思うが、私は好きです】と言うように特別な事は確かに起きない。とはいえ本書だけを教科書に中高の6年間の国語の授業を行った橋本武氏が【何かを残す】為に選んだと語った様に時代を越えた子供の眼差し、美しい描写が確かに鮮やかに心に残る。
一方で、個人的には興味を持って筆者の事を調べてみると、作中に出てくる叔母、兄、2人の女性とのあっさりとした別れの描写の背景に、特別な想いを邪推してしまったりもしてしまう。
美しい日本語表現や、子供時代を思い出したい誰か、そして"この世界の片隅に"が好きな方にもオススメ。