チャリング・クロス街84番地
"チャリング・クロス街八四番地のみな様へ 美しくご本をご恵贈くださいまして、ありがとうございました。総金縁の書物を手もとにおくのは、私にとってこれがはじめてのことです。"1970年発刊の本書は世界中の読書家を魅力し、映画化もされたニューヨークの脚本家とロンドンの古書店との20年間の心あたたまる書簡集。
個人的には"文化芸術"をテーマにした読書会で他の参加者に紹介されて手にとりました。
そんな本書は第二次世界大戦が終わって間もない1949年、消費文化が急速に浸透し豊かになったアメリカ、ニューヨークに住むテレビドラマの女性脚本家のへレーン・ハンフ。彼女が、こちらは戦争には勝利するも復興のために生活物資が不自由なイギリス、ロンドンの『古書専門店』マークス社に古本を依頼する書簡から始まり、やりとりを何年間もしているうちに、マークス社の担当にして紳士的なフランク・ドエル。と彼の同僚や家族まで交流が広がっていくのですが。
まず、へーレン・ハンフの【本に対する博識さ、こだわりのある依頼】が半端なく。それを時間がたってもちゃんと覚えて『見つかりました』と【忘れずに返信する】フランス・ドエルとのプロ意識溢れる応対から、自然とお互いの【信頼が積み重なっていく】様子が互いの書簡から伝わってきて。何でもネットで注文できる一方で『互いの相手の顔は全く見えない』現代では失われつつある『良さ』が、本書には時間を超えて保存されているように思いました。
そして、その『良さ』をあえて言葉にするなら。あとがきの書店『Title』の辻山良雄の言葉を借りるなら(単なる売買や利便性ではない)『心の通い合ったコミュニケーション』ではないか。と感じ、私自身がコロナ禍の2021年現在、オンライン化が求められる中でも本屋、中でもフリーペーパーの専門店の店主として、なぜ【リアルにお店を開け続ける】のか。また【利益にならなくても対面で相談にのり続ける】のか。の理由にも共通しているように思えて励まされました。
全ての本好き、古本屋好きへ。またウィットに富んだ書簡集として手紙好きな方にもオススメ。