雑種植物の研究
"それほど広い範囲まで包含する研究にとりかかることは、とにかくかなりの勇気を必要とすることである。しかし、それが生物の進化の歴史にとって重大な意味を有する問題を最終的に解決できる唯一で正当な道であるように思われる"1866年発表の本書は20世紀生物学に影響を与えた先駆的名論文。
個人的には、主宰する読書会の課題図書として、また『進化論』のダーウィンと比較してみたい。と手にとりました。
さて、そんな本書は発表当時は無視されるも、死後1900年に3人の学者によりそれぞれ独自に再発見され、いわゆる『メンデルの法則』(優勢の法則、分離の法則、独立の法則)として再評価、『遺伝学の祖』として現在では知られている著者が栽培植物の新品種をつくるために司祭として修道院生活をしながら庭で行った8年間のエンドウマメの交配実験を【科学的、数学的に検証し】学会発表した論文で。岩波版では論文が76ページ、イラスト付きの訳注が4ページ、そして著者の生涯解説が35ページといった構成になっているわけですが。
まず『なぜ実験材料にエンドウマメを選定したか』について慎重に述べた後、実験の順序を、そして雑種の第一代目、第二代目、その後の雑種世代、結論。と【数式や表を使って理路整然と書かれている】論文に(私自身は研究者ではありませんが)【現在でもそのまま通用する研究手法】なのに驚きました。
また、本書で紹介される著者の生涯からは【整った論文からは伺えない】幼い時の苦労話や、生徒にも人気だった熱血教師時代のこと、また晩年には修道院長として収入面では安定するも多忙で交配研究をやめてしまったことなどを知り、こちらも新鮮でした。
生物学を学ぶ人はもちろん、ライフ誌が選定した『この1000年でもっとも重要な100人』にも選ばれた著者の歴史的論文としてオススメ。