氷
"世界はすでに終わりの時を迎えてしまったように思われた。それももうどうでもいいことだった。この車が私たちの世界になっていた。小さく明るく暖かい部屋。静かに凍りついていく無辺の宇宙の中の私たちの家"1967年発刊の本書は"夜の世界を探索する作家"による唯一無二の美しい終末物語。
個人的には"文学のカテゴライズを越えた幻想小説"スリップストリーム文学とも、思弁的SFとも評価される本書を【一体どんな本なのだろうか?】と興味をもって手にとりました。
さて、そんな本書はもし誰かに説明するなら物語自体は割とシンプルで。全世界が詳しくは説明されない突然の『氷』により次第に破滅していく中【さておき"私"はひたすらアルビノの"少女"を追いかける】だけの個人主義的物語ともいえるのですが。
まず異論もあるようですが、私はやはり、この迫りくる『氷』追い続ける『私』(邪魔する『長官』)拒み続ける『少女』の構図がなんども繰り返される本書は【カフカ的な読み心地で】例えば"城"のようないつまで経っても辿りつけない不条理存在として『少女』が存在しているように読みながら感じていました。
一方で『私は道に迷ってしまった』と唐突に始まり、フラッシュバックの様に現実と幻想が不連続に挟まれる文章は物語として【頭で理解しようと目で追うと読みづらく混乱する】ものの【イメージの奔流が先にあって、文章が散発的に表出している】と受け止めると、やはり描写の圧倒的な美しさには独特の魅力があって。読み終えた後になんとも言葉にできない余韻を覚えました。
カテゴライズしきれない美しい文章に没入したい方や、雪に囲まれる中で読書する際の一冊としてオススメ。
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