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暴力批判論他十篇

"暴力批判論は、暴力の歴史の哲学である。この歴史の『哲学』だというわけは、暴力の廃絶の理念のみが、そのときどきの暴力的な事実にたいする批判的・弁別的・かつ決定的な態度を可能にするからだ。"1994年発刊の本書は"文の人"と評された著者の表題作含め亡命前のベルリン時代、前半生の著作集。

個人的にはミャンマーの国軍によるクーデター報道を眺めながらも国家による公的機関、警察はもちろん自衛隊は【当然に自分たちのためにある】と、どこか他人事、無警戒に眺めている自分に気づき、本書を手にとりました。

さて、そんな本書は1920年代から30年代にかけて吹き荒れていた【ヨーロッパ革命への期待が次第に失われていった時代】を背景にして、著者の様々な誌面で発表された文章が1919年に書かれた"運命と性格の関係を漠然とではなく再検討した"『運命と性格』に始まり、ナチスの台頭により亡命を余儀なくされることを予感した1932年に集中的に書かれた"幼い頃からを美しく回想した散文『1900年前後のベルリンの幼年時代』まで。時系列に計11篇収められているわけですが。

まず『芸術文化にたいして抱く一種の共同幻想』ー著者が別に『写真小史』や『複製技術時代の芸術作品』定義した概念【『アウラ』に繋がっていくのを予感させる】発刊予定だった雑誌の予告文『雑談"新しい天使"の予告』やドイツ・バロック演劇考察『認識批判的序説』そして『シュルレアリスム』への接近『ベルト(ルト)・ブレヒト』への賛辞は(すべてを理解できたわけではないが)文化芸術好きの一人として、時代の様子を追体験するかのように気軽に楽しく読むことが出来ました。

一方で、ハンナ・アーレントが「homme de lettres(オム・ド・レットル/文の人)」と呼んだ(らしい)著者の【アクチュアル、エスプリに富んだ論理展開】は特に各論文。例えば、表題作の自然な暴力、人為的な暴力(実定法思想)のどちらの潮流も一つのドグマとして一致するとして、むしろ法の外にたって【暴力を構成するいくつかの手段の正当性についての問い(p32)】を中心に置き『神話的暴力(既成権力による法指定暴力)』『神的暴力(規制権力すら転覆させるような法指定不在の暴力』を定義し、対峙させていく展開など(専ら私の素養の問題だと思いますが)流れるように読みやすく、短い文章にも関わらず、率直に言って【一読するだけでは全く頭に入ってこなくて】何度も繰り返し読み直さなけばいけなかった。(当時の時代背景理解が暗黙に前提として必要かつ求められている気がします)

表題作の『暴力と法および正義の関係』をあらためて振り返って考察したい方はもちろん『言葉や概念の関係性』について。丁寧に捉え直したい方にオススメ。

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