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ねじまき少女

"きみたちはいま、過去にしがみついてるせいで死んでるんだ。わたしたちはいまごろ、全員ねじまきになっているべきだったんだ。初期バージョンの人間を瘤病から守るよりも、瘤病に耐性を持つ人間を作るほうが簡単なんだから。"2009年発刊の本書は、SF賞を総なめにしたディストピアSF傑作。

個人的にも少し縁のあるタイ、バンコクを舞台にした本書。群像劇的に展開する上巻の途中で挫折していたのですが、今回ようやく読み終えました。

さて、そんな本書は【石油が枯渇しゼンマイ仕掛けの機械(とそれを巻く遺伝子改造された象)エネルギーが普及した】世界、また意図をもって創り出された【疫病が蔓延する一方、それに対応した穀物を法外な値段で売りつける】カロリー企業が牛耳っている世界を舞台に複数の登場人物の視点で物語がバラバラに展開していくのですが。

率直に言って、以前は【ややあやしい翻訳】それと【エネルギー資源問題、ウイルス、遺伝子操作】と現在地球上で懸念されている事態がことごとく最悪の形で実現した】ようなディストピア設定を読み込むのに一苦労したのと(この点は確かに帯通りにニューロマンザーと近い感覚)また、そこで日本企業の遺伝子操作により労働者として生まれた新人類"ねじまき少女"ことエミコが【度々性的に虐げられている場面】に嫌悪感を覚えて【上巻で挫折してしまっていた】のですが。

今回【途中から最後まで無事に読み終えて】そのエミコが自らとった行動によって【全てが加速して、見事に収束しているラスト】に拍手を贈りたくなりました。また一方で、エミコも含めた個性豊かな登場人物を勧善懲悪的ではなく【それぞれに偏らずに描いている】点も含めて面白かったです。

また東洋的なモチーフが取り入れられた似たようなディストピア世界だとブレードランナーとかを想像しがちですが。SF作品には珍しく?タイを舞台にしていることで、また違った【熱帯的な暑さや雑多感を感じさせてくれている】のも新鮮かつ本書の特徴的なところではないかと思いました。(しかし、こんな破滅の予感しかない酷い近未来が、どこかしらありうるかも?と今は思ってしまうのが怖い。。)

よく練られた設定、世界観を感じさせるSF作品好きな方へ、またSFならではのディストピア世界に浸りたい方やタイに縁ある方にもオススメ。

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