やし酒飲み
"わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外には何もすることのない毎日でした。"1952年英国発表の本書は、ヨルバ人の伝承をもとに英語で書かれた冒険譚、「簡潔、凝縮、不気味かつ魅力的」と評されたアフリカ的マジックリアリズム傑作。
個人的には、チヌア・アチェベの『崩れゆく絆』(1958年)を読んで、ナイジェリア文学、アフリカ文学に興味を持ち始めた事から本書についても手にとりました。
さて、そんな本書は10歳の頃から(!)酒飲みで、椰子酒を飲むことしか能のない(ニートな)"わたし"が【お金持ちの父親が雇ってくれた専属の椰子酒作り名人】が突然死んでしまったことをキッカケに取り巻き達も椰子酒がタダで飲めないなら!とあっさり去ってしまったので。仕方なく死んでしまった椰子酒名人を連れ戻そうと死者の国へと長い旅を始め、道々で数々の風変わりな人や怪物たちに出会いつつ、ついに死者の国へとたどり着くのですが。。
ええと、前述にして本書より数年後に同じナイジェリア人のチヌア・アチェベにより発表された『崩れゆく絆』が、ヨーロッパ文学のフォーマットに沿った意味で『洗練』されていて(翻訳者の工夫もあって)とても"小説"として、現代日本でも違和感なく読めたのに比較すると、本書は執筆時間は【仕事の合間のほんの数日】また正規教育を受けた期間は短かったかにも関わらず【『英語』で書いた】ことを考慮しても、冒頭の数ページから【全編にわたってツッコミ所だらけで】一応は『椰子酒名人を探す』というメインストーリーはあるものの、合間にパッチワークの様に次々と挿入される【奇天烈な短いエピソード】に終始ぶんぶんと振り回されるような読後感でした。
また、実際に欧米では絶賛され、アフリカでも国民的英雄視される一方で本書の(翻訳を通じても察せられる)『怪しい英語』とプリミティヴなテキストが【アフリカの後進性』という西洋の固定観念を促進する】と母国ナイジェリアでは激しい批判にもさらされたらしいのですが。それも納得しつつ。しかし、本書が英語圏で発表された事で【ヨーロッパ文学自体の幅が広がった】ことや、ナイジェリア、アフリカ文学のチヌア・アチェベ他の【後進達に影響を与えた】功績はやはり大きいのではないか。と思いました。
アフリカ英語文学の有名な初期作品として、またユニークな冒険譚が好きな方にもオススメ。
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