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むずかしい愛

"恋することはいつもこんなふうだった。この洞窟の鏡の中のような、言葉の向こう側の世界に入っていくことだった。それにかれは、今まで一度だって自分の詩のなかで愛の言葉を書いたことがなかった。一言もだ"本書は"文学の魔術師"1950年代の連作、不在を語る12の"冒険"が収録された短編集。

個人的には著者の本はマルコ・ポーロがフビライ汗に摩訶不思議な都市を語る、美しく詩的な幻想小説『見えない都市』についで手にとりました。

さて、そんな本書は1958年に『短編集』1970年に『むずかしい愛』に収録された作品を創作年代順に12篇、兵士、悪党、海水浴客、会社員、写真家、旅行者、読者(本好き)、近視男、妻、夫婦、詩人、スキーヤーといった様々な登場人物たちが【日常的なトラブルや愛(恋愛、情愛)】に寡黙かつ内面的に奮闘する姿がそれぞれに描かれているわけですが。

率直に言って『見えない都市』の抽象的、実験小説的なわかりにくい難解イメージがあった著者でしたが【本書は実にわかりやすく】また作品によっては、電車で隣り合った女性に性的接触を計ろうと悶々とする『ある兵士の冒険』や、海水浴場でセパレートの下が流されてしまって帰れなくなってしまった『ある海水浴客の冒険』と【エロチックでユーモラスな味付け】が施されているのにも驚きました。

また個人的には、収録作では、北イタリアから南はローマで暮らしている彼女にはるばる会いに最終列車で準備万端に向かう『ある旅行者の冒険』には、青春18切符を使った列車旅の楽しさや、若々しく【高揚しっぱなしの恋心】がイメージ出来てニヤニヤと。そして、夜勤の夫と昼間勤務の妻とのすれ違い生活。言葉は少なくも、それぞれに【ベッドに残すぬくもりを愛おしむ】『ある夫婦の冒険』からは共働き夫婦の様子が、わずか4ページ弱で巧みに伝わってきて上手い!と感嘆しました。

日常的、雑談のような短編小説が好きな方、コミュニケーション、愛の難しさをテーマにした作品が好きな方にもオススメ。

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