向日葵の咲かない夏
"太陽は僕たちの真後ろに回り、アスファルトには長い影が一つ、伸びていた。首を振り、顔を上げる。平気だよ、と、もう一度口の中で言った。"2005年発刊の本書は、第6回本格ミステリ大賞候補にもなった生まれ変わりを信じる少年のある夏休みの物語。
個人的には10月7日のミステリの日に向けて、国内外の新旧のミステリを読み漁る中で、本書についても手にとりました。
さて、そんな本書では欠席した同級生S君の家にプリントと宿題を届けにいったミチオがS君が首を吊って死んでいたのを発見したところから物語は動き出し、あるものに姿を変えて生まれ変わったS君、そして年齢以上に"大人びた"妹のミカと共に事件の真相を追いはじめるわけですが。
饒舌なS君をはじめとして、登場人物それぞれが嘘というか【自分の創った物語で世界を見ている】本書。決して明るい話ではないので人を選ぶと思いますが。個人的には終始なかだるみせず、緊張感をもって読み終えることが出来て【一人称の語り手による叙述トリック】として面白かったです。
一方で、生まれ変わり。といった概念を自然に受け止めることができる。その事自体が割と日本人独自の感性であると同時に【本書の不条理な世界を受け止める】前提になっているわけですが。それが読み終えた後に"あのページの台詞の真実はこうだったのか!"と必然的に読み返す結果にもなるわけで。凝った構成に感心しました。
ミスリードさせられる叙述トリック好きな方へ。また現実と虚構が混在する作品が好きな方にもオススメ。