太宰治の辞書
"私は、あぶなっかしくいった。『《生れて、すみません》は、太宰の言葉じゃないんですか』『確か、寺内とかいう人の一行詩ですよ』"2017年発刊の本書は日常の謎ミステリにして『私』の成長シリーズ『円紫さんと私』前作から17年ぶりの続編にして、芥川、三島、太宰文学の旅に誘う一冊。
個人的には、太宰治『桜桃忌』持ち寄り読書会で『女生徒』を紹介した際に参加者の方にオススメされて手にとりました。
さて、そんな本書はシリーズと共に表紙イラストも含めて『私』が作中でも学生、社会人と次第に成長していく『円紫さんと私』シリーズ6作目、17年ぶりの作品で【作中でも20年あまりの時が流れ】前作では社会人になったばかりの『私』が今作では既婚、中堅編集者として中学生の息子もいて。また、これまで探偵役をつと落語家の『円紫さん』も堂々たる大真打ちとして貫禄あるも何と本書では【探偵役はつとめない】のですが。
と、ここまで『あとがき』を参考に紹介しつつ。前述の理由で実は『円紫さんと私』シリーズを前作はおろか【はじめて手にとったので(笑)】『私』他の登場人物の変化は当然に全くわからないので(シリーズ一作目から読めば良かった)紹介される芥川、太宰作品と『私』の向き合い方を中心に感想を書きます。
さて、まずはやはり太宰治『女生徒』ですが。個人的には太宰の魅力の一面として『女性言葉の自然な使い方』『二次創作のうまさ』だと思っているのですが。そういった意味で当時の女性ファン(有明淑)から送られてきた日記をもとに太宰が書いた『女生徒』はかなりマイベスト。とここまでは同じ読み手として『私』の感想と重なる部分があるのですが。凄いのは本書の『私』の【そこからの掘り下げ方】で、もとの女性ファンの手紙現物と太宰の『女生徒』を比較して『違和感を覚える箇所に気づいたり突き詰めていく文学探偵ぶり』はシリーズファンにはお馴染みなのかもしれませんが驚きと【自分の読み方の浅さを大いに恥じる】"楽しい"感覚でした。
また(長くなる予感が既にしたので、割愛します(笑))芥川龍之介の『舞踏会』はおろか、元になったフランス人、ピエール・ロナの『日本印象記』のどちらも未読だったので【古典作品好きとして慌ててチェックしつつ】しかし仮に未読でも、そして本書全体に言えますが【散りばめられた文学ネタ】は芥川、三島、太宰だけでなく本好きや読書会に親しむ人ならきっと楽しめのではないか。と思いました。
シリーズファンの方はもちろん、日常ミステリ好き、また私みたいに太宰作品好きな方にもオススメ。