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いちげんさん

"この街にたった一人でも自分を見ない人ー僕と普通に接してくれる人ーがいることは、言葉では言い表せないほどの心の安らぎだった"1996年発刊、第20回すばる文学賞を受賞し映画化もされた本書は、見る、見られる。京都を舞台にした旅好きの異邦人と目の不自由な二人の織りなす繊細な恋愛小説。

個人的には、京都を舞台にした小説を探す中で、本書の存在を最初は知らなかったのですが。著者が"ちょっと上の"大学の先輩にあたることを知って、興味をもち手にとりました。

さて、本書は1990年の京都において、スイス出身の留学生として大学で日本近代文学を学ぶ"僕"と朗読ボランティアを通じて知り合った神秘的かつ魅力的な全盲女性"京子"との1年余りを描くフィクションとしてのラブストーリーなのですが。

最初に【2人の関係性】で率直に感じたのは、直接こそ言及されないとは言え、作中で、古書コレクターとしての"僕"が『鍵』の初版本について述べていることもあって、やはり【谷崎潤一郎の『春琴抄』や世界観はかなり意識していたのかな?】という印象でした。そして、必然的にラストの展開も同様になるのかとハラハラとさせつつも、こちらは意外にも("僕"の決断自体は賛否があるとしても)爽やかな形で結末を迎えた事に、ちょっと胸を撫で下ろしたり。

一方で、同志社大学での著者の実際の在学経験が色濃く反映していると思われる"僕"が【若者特有の自意識過剰さ】は多分にあるとしても、京都に溶け込もうと努力しているにも関わらず、受け入れられずに終始"ガイジン"として見られ、扱われる事にイライラと疎外感、結果として【死んだ街】として失望する姿には、本当に京都は書き手によって様々な姿に描かれるなという新鮮さと同時に、インバウンド政策もあり、当時に比べると数倍にも海外から旅行客が訪れるようになった今は【一体どのように映るのだろうか?】そんな事を考えたりしました。

京都を舞台にした恋愛小説を探す誰かに、あるいは『見る、見られる』マイノリティな関係性理解を深めたい誰かにもオススメ。

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