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デイジー・ミラー

"『あたし、男の方とずいぶんおつきあいをしていますのよ』ウィンターボーンは面白くも思い、当惑をおぼえもしたが、あろうことか、すっかり心を魅せられてしまった。"1879年発刊の本書はヨーロッパ的な視点とアメリカ人としての視点を持ち、20世紀心理主義小説家としてプルーストやジョイスの先駆者としても知られる著者による初期傑作。

個人的には、同じ著者の怪談というか心理ホラー傑作『ねじの回転』がとても面白かったので、本書も手にとってみました。

さて、そんな本書は著者がローマ滞在中に女友達から聞いたあるアメリカ娘について話を聞いたのに着想を得て描かれた約100ページほどの短い作品で、第一部がスイスのヴェーヴェー、第二部がイタリアのローマを舞台にして、長年ジュネーブで暮らしてきたウィンターボーンというアメリカ人青年が、アメリカからヨーロッパ旅行に来ていた美しくも『無邪気かつ奔放』なデイジー・ミラーに次第に魅せられていく半年ほどの物語なのですが。

まず、アメリカに生まれ、ヨーロッパに学び暮らした【著者の生い立ちの影響】が伝わってくる当時の『無邪気(イノセンス)』な新大陸アメリカ、そして『常識・知識』を旧大陸ヨーロッパとの対比、対立を【登場人物がはっきりと代弁している】のに新鮮な印象をうけるわけですが。(ちなみに『くだけたアメリカ英語』と『堅苦しい英語』で両者の違いを工夫して書き分けてもいるらしいのですが。日本語だとそこまで違いわからなくて悔しい)

一方で、あとがきによると著者も自覚していたらしく【ボーイ・ミーツ・ガール的な恋愛物語】としても普通に読み進めると人物描写にこそリアルさを感じるものの【劇的な場面や展開もなく】あっさりと終わって戸惑うのですが。そこは『ねじの回転』の著者。もっぱら青年、ウィンターボーンの視点のみで構成されている本書を『信頼できない語り手』として、再読してみると【直接的には書かれてはいない】デイジー・ミラーの恋心が【間接的に浮かび上がってきて】巧いな!と私的には唸らされました。(むしろ、最近の小説やドラマ、映画『説明過多』に感じませんか?)

心理主義小説、モダニズム文学小説の先駆者の初期傑作として、また冗長さや直接さより暗示に留めた心理描写を好む人にもオススメ。

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