デカメロン中
"私のような年齢の者がご婦人の事ばかり話して怪しからんと言われる方には申し上げます。そうした方は人間を知らない。韮葱の頭は白くとも葉は青い。"1348年から1353年にかけて製作された本書は、ペストから逃れてフィレンツェ郊外に引きこもった男女10人が語り合う10日間の100物語、その中巻にして、第4日から7日までの物語。
個人的には、上巻から続くペスト禍における【ステイホームなセレブ達】男3人、女7人の10人の【王様ゲーム】として引き続き手にとりました。
さて、そんな本書は冒頭の"まえがき"にて、著者が当時の一部の人々から"ご婦人方に取り入ろうとしている""霞を食うような空しいお喋りはいい加減にせい"といった批評がある事について饒舌に例え話にて反論した後から始まり、4日は【不幸な結末を迎えた恋の話】5日はそれを受けて【不幸の後にめでたく終わる恋の話】6日は【見事な返事や判断で身の破滅を回避した人の話】7日は告白するかのように【女たちが夫に隠した秘事】について。各10話ずつ計40話。おおらかなエロスと共に語られていくのですが。
美術史好きとしては、中では、やはりボッティチェルリの連作絵画にして、この河出文庫版のカバーにもなっている『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語』(第5日8話)そして、ルネサンスの先駆けとして知られる画家、ジョットが相手と『互いの醜い容姿を冷やかす物語』(第6日5話)が、親しみがあって興味深く感じました。
また、著者のまるで当時の人々が目の前で話しているのが浮かんでくるような【いきいきとした翻訳】そして約60ページ近くにわたる【重厚な巻末解説、豊富な注釈】は、引き続き素晴らしく。本書が単なる"無思想な艶話"(大正時代に国内で検閲、発禁対象になっていた事には驚きました)などではなく、プロテスタント諸国で歓迎されたダンテの『神曲』の強い影響下で書かれた【異議申し立ての作品】である事を補足して理解することが出来、嬉しかったです。
ペスト=コロナ禍の文学として、またイタリア散文芸術、ルネサンスの始まりを知る事ができる物語としてオススメ。