いえめぐり
"不動産屋の営業担当と一緒に車で移動する際のこちらとあちらの関係は(中略)どこか非日常感があるなと前から感じていました。"2021年発刊の本書は車という『密室』から物件という『密室』へと奇妙で幻惑的な旅を繰り広げていく物語。
個人的には、まさに私自身が引っ越しをしようと不動産屋に物件案内をしてもらっていたタイミングであった事もあり、興味を感じ手にとりました。
さて、そんな本書は一軒目から七軒目まで【次第に奇妙な姿に変わっていく】不動産屋の車と同じく、紹介される物件も、一軒目の"持ち主が取り憑かれたように改装にのめり込んだ"物件こそ【実際にあるかもしれない?】と多少は感じさせるものの、二軒目からどんどん【非日常的な物件案内に突入】していくわけですが。
まず、事故物件やセルフビルドといった"わけあり物件や間取り案内"といった建物自体をメインとした本こそ既に沢山ありますが。著者が後書きで述べている様に"不動産屋と二人きりの【物件案内は小旅行】"と『物件案内』に着目して好き勝手に妄想を拡大していく感じがなんとも他にない新鮮さで、童心に帰るような、あるいは強制的に異世界に連れて行かれるような不思議な感覚でした。
また、一軒目から七軒目へとそれぞれバラバラに構成されているのではなく、一軒目、二軒目、三軒目と次第に【加速していくかのように日常が溶け出していき】さながらセカイ系?ワイドスクリーン・バロックSF?の様にカラーで怒涛に展開するラストの辺りは【サイケデリックな銀河鉄道の夜】の様なめくるめく圧巻の読後感でした。
『物件案内』がとにかく大好き、あるいは『物件案内』に非日常性を感じている人にオススメ。