この人を見よ
"要するに私の本を読むと、ほかの本に耐えられなくなる。とくに哲学の本に。私の本の、高貴でデリケートな世界に入ってくることは、比類のない特典だ。"1908年発刊の本書は、実存主義、生の哲学に大きな影響を与えた著者の精神が壊れる直前の最後の本にして、自身の生い立ちや作品解説で構成された感慨深い一冊。
個人的には"ニーチェ自身による最高のニーチェ公式ガイドブック!"という裏面の謳い文句に惹かれて本書を手にとったのですが。まず驚かされるのは目次の異様さ。『なぜ私はこんなに賢いのか』『なぜ私はこんなに利口なのか』『なぜ私はこんなに良い本を書くのか』と続く流れには、著者らしいと言えば"らしい"のだけれど、なので言葉通りの傲慢さと受け取るよりは【羞恥心や孤独を包み込んだ偽悪者的ふるまい】と感じるべきだとわかっているのだけれど。それでもやっぱり(しつこいくらいのドイツ嫌いへの言及も含めて)驚かされました。
一方で、本書は著作、中でも『ツァラトゥストラ』からの引用が多く、それが【どのような構想や意図で執筆されたか】について多くのページを割いて解説を加えているのですが。有名な『永遠回帰』『超人』などについて、やはり他者でなく【著者自身による言葉で】直接知ることができるのは、なるほど確かに公式ガイドブック!と貴重な本だと思いました。
そして、既に歴史を知っている立場からは、やはり本書に記されたドイツ嫌い、反ユダヤ主義への著者の強い嫌悪にも関わらず【それでも】死後に妹によって意思を歪められ、真逆のナチズムに名声を利用されてしまったことに、何とも皮肉さを感じてしまいます。
最後に"私は理解してもらえただろうか?ー私は、十字架にかけられた者に敵対するディオニュソス"自身をキリスト教的理想、彼岸主義をイメージさせるアポロン神に対するディオニュソス神として、現実主義『矛盾・虚偽・退廃を内包した生』を【時代に先駆けて説き続けた】著者に深く敬意を。
著者の考えを知る入門的一冊として、あるいはご無沙汰的にニーチェを手にとる方へもオススメ。