ガリレイの生涯
"君の目を望遠鏡にあててみろよ、サグレド。君が見ているのは、天と地には何の区別もないという事実だ。今日は1610年1月10日。人類がその日記に、天国が廃止された、と書く日だ"本書は【出来事を客観的・批判的に見ることを促す】『叙事的演劇』その方法としての『異化効果』で戦後の演劇界に大きな影響を与えた著者によるガリレイの生涯を題材に科学と権力の問題を扱った1943年初演の傑作戯曲。
個人的には、最近脚本づくりにいそしんでいる事から勉強のために本書についても手にとりました。
さて、そんな本書は誰もが知る"それでも地球は動く"地動説の撤回をめぐって教会と近代科学の先駆者ガリレオ・ガリレイの間に起こった歴史的な事件、その生涯を14幕で描き、第二次大戦の影響下での亡命生活を生きたナチ時代、それから同じく亡命者にして原爆開発に関わったアインシュタインの運命を重ねて【科学と政治について】観客に問いかけているわけですが。
まず魅力的なのは、作中の『英雄のいない国は不幸だ!』に対するガリレイの【違うぞ。英雄を必要とする国が不幸なのだよ】に代表される、若かりし時から晩年までの心情を反映した(著者創作による)ガリレイの名セリフの数々でしょうか。
他にもいくつか引用すると『真理とは、時代の子供であって、権威の子供ではありません』『僕は、理性が人間に与えるおだやかな力というものを信じている』『科学の目的は無限の英知の扉を開くことではなく、無限の誤謬にひとつずつ終止符を打っていくことだ』いやあ。訳者の方のおかげもあると思いますが、どれも実にカッコよくメモしたくなります。
加えて、戯曲ではありますが。物語単体としてもペストの影響や、ラテン語を話す当時の知識人の描写といった【当時の様子がちゃんと細部まで描かれていて】ガリレイの心情の変化に説得力を与えており、普通に面白いだけでなく。著者自身による約40ページの『覚え書』上演に際しての時代ごとの作品解説も同時に収録されていて、著者自身の意図が伝わってきて貴重だと思いました。
演劇に関わっている、いた方はもちろん。現在にも通じる科学と政治(権力)の関係性について、あるいは自分の頭で正しさを考えるキッカケとしてオススメ。