教育研究シンポジウムに参加して 何よりも私は自分の現場で「読書」を勧める
世界各地で活動されている教員約150名の皆さんと教育研究シンポジウム2020に参加させて頂いた。その中でも、現在UNESCOタイ事務所でご活躍されている宮沢先生がセミナーで話されていた、ある少数民族の村での学校教育の現場の話が印象的だった。その村では、親が教育の価値を理解しておらず、子どもたちに「学校なんて行かないで働いてくれ」と言っていた。ここまでは、発展途上国の村でよくあるストーリーだと思う。ただ、この時、校長先生が生徒の親に言った一言が、とても印象的だった。
「今、あなたの子どもが学校をやめたら、子どもが大人になったとき、あなたたちと同じくらい貧しい生活を送ることになる」
私は教育現場には直接携わっていないけれど、知的好奇心を満たすことだけが自分の生き甲斐だった子ども時代と、大学生の頃に中学生~高校生の家庭教師をしていて、不登校だった子が、私の母校に進学してダンスの世界大会に出場するようになったのをきっかけに、やっぱり教育、とくに「読み書き」は重要なんだと痛感した。そして、本当の「人を育てる」教育は、課題を伝えることではなく、その課題を解決できると信じて行動している人々の姿なんだと思った。
宮沢先生は、最初に私たちにEquality Education(平等な教育)とEquity Education (公平な教育)の違いを強調していた。SDGsの目標4でも「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」とある。
「僕は、情熱を持った、スイッチの入った先生方を増やしたい」
それを、どう達成できるか。前途の校長先生のような現地で情熱を持って物事に取り組む人々を、どう増やせるか。
What (課題)はもうみんな知っているから。Howの話を。
国際協力の現場での教育というと、ICTだと言うけれど、それは Access to learning が緊急課題の現場における必然事項であって、私自身が伝えたいのは、思考力、発想力、読解力などの物事の普遍性と時代性の両方を深く理解して相手に伝えるためには、とにかく「読書」なのだ、と。それは、世界で起きている物事を多面的に見る術であり、予測不可能だといわれる未来を、できる限り予測して、自分にとってより生きやすい環境を創り上げていく術。
特に、観光分野でいうと、独自の価値観や文化、地域に根差した誇りを、自ら外へ発信していくためには、まず独自性を知らなくてはならない。それには、読解力や発想力のほかに、想像力、そして現場力、他者を知る力、そして伝えたい人々に伝える力・・・とにかく基礎能力が不可欠だと痛感する。
UNESCOの宮沢先生が行う Learning Coin プロジェクト。読書を毎日続けたり、勉強を行うことによって、家庭にお金が入る仕組み。先生は、その子供を鼓舞し、ときにフィードバックを与えながら、生徒をサポートする。
先生の活動のメインはタイ、そしてタイではタイ政府の協力もあり普及が進んでいるので、現在はラオスやミャンマーだそうだ。
私がいるベトナムはどうだろうか。政府は教育に対しては熱心だし、今年3月末に緊急事態宣言が発令された2週間の期間も、政府手動で全国統一の教育がTVやラジオを使って行われていた。(パソコンでも実施されていたが、一家に一台あったら良いほうで、みんなスマホしか持っていない為)その迅速な対応と、国民の柔軟性や対応力は、とても素晴らしいと思った。ただ、年間の平均読書数は0.8冊と言われているほど少なく、日本の国会図書館のようなシステムを構える国立図書館も無く、所蔵数も少ない状況。何よりも、新聞も本も、論文も、親世代が読まない。ベトナム語の論文数も圧倒的に少ない。スライドや映像は、「その場ですぐ理解する」手助けにはなる。誰かが、まとめてくれるから。でも、その人の思考力や課題解決力は向上しない。Access to learning と同時に、この国に必要なのは、Reading comprehensionだ。
以下は、参加者の皆さんからの感想や意見の抜粋
・保育園では、外国籍の子どもの保護者への文書は、出せていない。後に残る文書は外部に出せない。管理職が文章のチェックが出来ないため
・日本と発展途上国上の課題は共通点があること
・現実と理想の違いが生まれるのは、外からの視点が必要。でも、だからこそ内側にいる人と考えのギャップが生まれる
・SDGsに現職の教師として取り組んでいるが、今まではその学びが進学にどれだけ結びつくのかなどの課題もあり、日本の教育環境は国際教育などに難しいのではと感じている。しかしながら、教科書も変わるので、今後はもっと授業で取り入れることができると期待している
・日本では、今後そのデジタルを目的に応じてどう利用していくかが大事になる
・自分の故郷を胸を張って語れる教育を受けてこなかった自分に気付き、担任する子どもには自分の故郷の大切さをしっかりと伝えられるように教育してきた。
・勉強したら親にお金が入る(資金援助ができる)という発想に驚き、おもしろかった。このような方法によって保護者が教育の必要性を理解できなくても、子供たちの教育につなげられるという発想の豊かさを感じた
・ある学校では、数年間かけてsdgsに関する学習をしてきたそうです。すると、今まで海外に興味を示さなかった子どもたちがトビタテに応募するようになったそうです。継続は力なり。
・スイッチが入っている人とその制度作りが大切
・教育とは、どこかで大人の考えを押し付けるものになってしまう。思うようにならないことが生じた時が、自分の枠を崩すチャンス。その繰り返しが大切なのかも。学習指導要領や、教育法規に、立ち戻りながら、視野を広く持つ。自分のフィールドで、その強さが発揮できたら日本の学校は変わるのではないか。
・私たちの班では、アフリカやヨーロッパ、アジア、南米地域から様々でした。どの地域でも格差(経済面、言語教育)が存在しており、途上国とは言っても、日本より優れている(音楽教育、スポーツを心から楽しむ姿勢、ネット環境)という点が多くあり、日本で生かしたいとのことでした。また、任地でマイノリティを経験したことによって、違うことが当たり前だし、色々な考えがあって素敵であるというという素敵な意見も出ました。
・経済格差は教育格差に繋がる。日本の学校でもそうで人材や教材の予算などの面でもっと充実するとよい。今回のコロナ禍でも学校現場でオンラインを取り入れるタイミングの差などがあった。
・ 1.日本で職場で一緒に活動を進めていく意思を同じくする仲間(カウンターパート)をたくさん見つけていくこと。2.最初はなかなか成果や変化が見られないかもしれないけれどチャンスを逃さずあきらめずに進めていくこと。3.全員を、ということではなく、一人でも思いを同じくする仲間(学校なら児童・生徒)が現れればよい、という気持ちでやった方が良い 4.いろいろな場でとにかく情報を絶やさず周囲に発信していくことが必要
・マイノリティの気持ちに寄り添うことが出来るのはマイノリティの経験をしたものだけだと思います。
・善きことはカタツムリの速度で動く というガンジーの言葉を大事にしてます。
・公正(Equity)な教育をもっと広めていくことが大事
ちょうど今朝、ベトナムの経済学の先生と、ベトナム人の読書環境や、大学教育の現場の改善点の話をしていて、考える点が多かった。先生の学科では、学部長から来年度からテストの論文記述を無くして選択問題だけにする、という指示があったそうで、先生はそれでは学生たちの論理的思考を伸ばせないと言い合ったそうだ。「選択問題だけにすれば、採点も簡単になる。仕事も減る」それが学部長の話らしく、理解できない点が多々あるが、これが教育現場で起こっている現状なんだと痛感した。
情熱を持った先生を増やすことはもちろん、情熱を持った先生の、その情熱を絶やさないためにも、成果が見えないときでも、計画性を持って、少しづつ、継続させる。そして、教育現場を変えようとしているその声を、必ず救い上げていく。
1.TRUST
2.RESPONSIBILITY
3.TAKE ACTION
納得させるためには、何かしらの実績が必要なんだ。もっと、論理的思考をもったベトナム人が、どんどん発信していって、成功を収められる世の中を。そういった、読書や勉強から這い上がっていった人々のストーリーを増やさないといけない。教育現場でも、研究現場でも、世界でも。
以前、ベトナム人の友人が呟いた言葉を思い出した。
「ベトナムはコロナ抑制に成功しているのに、先進国の人々は、全くこの国に興味を示さない」
同情しつつも「自分たちの国が、他国と比べてどのような点を注視して、阻止できているのか、それを理解して、先進国の人々が理解できる言語で発信できる権限のある研究者や教授をもっと増やしていかないといけない。でないと、無かったことになる」と伝えておいた。
それを伝えるために、私はベトナム語を学んでいるのかもしれない。
とはいえ悔しいけれど、子どもたちにとっては、知らなければ、夢や希望を持つことすらできない。誰かが何かをしてくれるのを待っていては何も進まないのと同時に、公平な機会を与えられるEquity Education の世界で、こういう機会もあるんだと、たぶん、家と学校の往復しか知らなかった中学生の自分に伝えたいという一心で、日本の学生へ向けて、こちらも共有しておく。
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