日々是徒然20230224 戦争を読む
露西亜が鳥克蘭(ウクライナ)に侵攻して1年、television放送はいくつかの番組で開戦当時の2日間をドキュメントした。はじめて聞く話もいくつかあった。欧米はゼレンスキー大統領に逃げることのみの選択を告げた。抗戦を決意してSNSの自撮りで、「私はここに居る。私たち(側近)もここに居る」と国民に呼びかけたところから、状況は変わった。それでも欧米は負けを想定し、ゲリラ戦をやるための武器だけを供与した。
次の転機は「ブロバルイの戦い」。露西亜の戦車の隊列がのびたところをウクライナの榴弾砲が集中砲火した。これまでは、間抜けな露西亜軍という見方をされていたが、用意されていたウクライナの戦術によるものだということ。(いくつかの開戦ドキュメントが製作され、開戦時の様子が公開され、高橋杉雄も知り得た/知っていた情報を公開しながら解説)ウクライナの独自戦闘能力の高さが、欧米の負けないための武器供与に繋がった。
1年を振り返る映像が流れたところで、兵頭慎治、東野篤子、小泉悠は、うっすらと涙を浮かべながらコメントした。この戦争は地政学的、政治的、軍事的に語られてはいるが、基本、一方的に仕掛けられたウクライナの人たちの視線に立って見ることを忘れてはならないということ、日本での戦争報道ですら露西亜の情報戦に加担する可能性があって、ウクライナに不利になる情報(たとえばウクライナ軍の伏せてある軍隊の位置)は、知っていても云わないという不文律を守っている。
情報は、もちろん操作されて目の前に現われる。報道番組のキャスターは共通してナラティブをもっていている。時折、高橋杉雄とか東野篤子はそれを指摘する発言もするし、けっして組みすることはない。この戦争の中で、自分は、TV報道やネット番組(国際報道Chなど)を詳細に見ながら、彼らの目や仕草を見ている。見抜けるわけではないが、情報は懐疑の目ももって、受け止めなければならない。それでも大本営発表とは雲泥の差であるし、2014年のクリミア併合のときの、報道のなさに比べれば自己判断出来るほどの量がある。
自分に引きつけられるところとして…戦争を起したのはプーチンであり、たった今、止められるのもプーチン一人であるということは、自明なこととして、…それでも戦争継続には、ロシア人が共有しているロシア的なものが大きく作用してはいないか…だとしたらロシア的なものとは何か…それを文学から探る…それを課題にして1年を過ごした。まだまだロシア的なものを摑めない。ちょっと体質にあわないところもあるから。
1年たっての総括番組で、いろいろ聞いていくうちに、特に小泉悠の見解を聞くと、たしかにこの戦争ロシア的な共通感覚が戦争を支持しているところもあるが、ロシア人いつもこのように反応するわけでもないので、やはりプーチンとプーチンの権力サークル(小泉悠の言い方)によるものという要素が大きい——と。納得出来る見方である。自分の本読みも少しシフトを変えようと思う。いやもうすでにずれはじめていて、ロシアと日本の境界地、たとえば樺太(サハリン)や大連、そこから生まれた日本の文学を読みはじめている。戦争と植民地と地図(地政)と…。
さて終わらない、終えられない戦争に暗鬱となりながら、日本の経済状況のなんとなくの摑めなさに、戦争以外で隠されている情報をどうやって手に入れるのだと、こちらも暗い気分になっていると、ふと、ヴェネチアが干上がっているという記事を目にした。
ヴェネチアは、3年前の2019年冬に、一部稼働していた建設中のモーゼ(Mose)を作動し損なって、記録的な高潮(アックア・アルタ)に見舞われた。モーゼはイタリアらしい汚職にまみれて進行が遅れに遅れていた。水没も現実になるか——そう思われたその3年後の冬、そう2023年冬に旱魃で、運河は干上がりゴンドラが行き場を失って船の腹を晒した。記録的な旱魃。アルプスからの水が減ったのが原因。
2022年夏には、西班牙エストレマドゥラ地方の旱魃は、バルデカニャス貯水池を乾水して、水底に沈んでいた
7000年前の巨石群・グアダルペラル・ドルメン(Dolmen de Guadalperal)の姿を顕にした。他にもフランコ政権時代に水没させた教会が湖底から顕れ、中国長江では記録的旱魃で川底から巨岩石に彫った仏像が出没した。セルビアのドナウ川では、やはり旱魃で、ロシア黒海艦隊に追われ自沈したドイツ軍軍艦20隻が搭載していた爆薬ごと姿を見せた。季節外れの豪雨と旱魃が世界に勃発し、そこからは戦争の遺骸が廃虚となってあらわれる。
戦争ばかりを見ているのは、自分だけなのかもしれないが、気候異常もまた世界に連鎖して戦争状態だ。戦争によるウクライナの小麦喪失は、ヨーロッパ、中国の旱魃、北米の度重なるハリケーンと豪雨と絡んで、世界恐慌を引き起こす可能性もある。虚の金融も危ないが、食物による恐慌もまた迫っている。欧州連合は、500年来の旱魃だと危機を募らせているが、打つ手は余りないのかもしれない。プーチンの戦争と一緒で。
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