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「みんな死んじゃえって目をしてるね」
海を見に行った。
海を見て、体内に溜まっていたものが消えたわけでも、思考の整理整頓ができたわけでもなかった。水分を多く含んだ強い風が髪を崩していき、べたべたとした重たい空気と髪が顔にはりつく。鬱陶しい。息継ぎの間も無くテトラポッドに打ち付けられる波の音と、微かにこちらへ飛んでくる水滴を受ける。
「 全員死なないかな。」
漏れた声は波と風がどこかへ運んで行った。
苦しくなって、逃げたくなって、今夜だけは静かな場所にいたいと思った。
他の建物に遮られることなく差し込んでくる金色の日差しを受けながら愛おしい猫を抱きしめ、ピアノを弾いて、夜はエアコンのない部屋で窓を開けて、静かな外の匂いを感じ、虫の声を聞きながら眠る。朝になったらウトウトしながらまた数時間電車に揺られてアパートへ戻る予定だった。
そうしたかった。
そうしないと限界だと思ったから。
新幹線の切符を買う。お金に余裕はない。
連休最終日、地方に向かう新幹線のホームは、キャリーケースとお土産を持って楽しそうに話す家族連れや、カップルばかりだった。その空気に押し潰されてしまいそうで、耐えられなくなって、速足でホームを抜け出した。
乗るはずの新幹線の頭がこちらに向かってくるのが見えていた。
せっかく買った切符は在来線のホームのゴミ箱に捨てた。
情けなさとやるせなさ、その他の感情がぐるぐると混ざり合ったものが涙となって溢れた。
変わらずお金に余裕はない。
灰色の波の音に混じり「プツリ」と聞こえて、かろうじて繋がっていた糸が完全に切れた気がした。
これで何度目だろうか。
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