神保町
服装に迷う季節。
上に着る服は、何枚がよいだろうか。長袖か、半袖か。
家の中と外の気温差はどれくらいだろうか。
晴れていたら日差しで暑さを感じるかもしれないし、日が暮れたらむしろ冷えるかもしれない。
外に出て、電車に乗り、目的地に着くまでの間、すれ違う人々の格好をチェックしていく。
長袖パーカーの人もいれば、半袖Tシャツ姿の人もいて、こうもばらついているならば悩むこと自体が無意味に思えてくる。
この日、じつは予想に反して暑かった。なので結局、駅のトイレに立ち寄って個室に入り、中に着ていたシャツを1枚脱いだ。
たどり着いた駅は、御茶ノ水駅。ここから、目的地の神保町まで歩いていく。
神保町には特別な用事はない。ただぶらつきたいだけ。ここには、学生の頃から定期的に訪れている。
車通りの多い明大通りの下り坂をおりていく。
ギターやトランペットが所狭しとディスプレイされた楽器専門店や、明治大学のビル、山の上ホテルの看板などを横目に、徐々に神保町エリアへと踏み込んでいく…。
ということで、今回はこの日歩いた神保町のスポットについて書いていきたい。
【①共栄堂】
神保町は、正式な地名は「神田神保町」というらしい。江戸時代、ここにお屋敷を構えていた神保長治(じんぼうながはる)さんという方から名前をとったのが町の由来だそう。
その神保町における「三大カレー店」の一角に数えられる「共栄堂」で、この日は昼食をとることにした。いつ誰が「三大カレー」と言い始めたのかはわからないが、共栄堂は大正13年から創業している老舗の人気店。
共栄堂は地下1階にあって、土日のお昼時は階上まで行列を作っていることが多い。しかし、回転率が早いので、多少並んでいても、すぐに入れてしまう。待つのが苦手な自分も、臆することなく列に並ぶ。
ここで食べられるのは、スマトラ式カレーを日本人向けにアレンジしたというスープカレー。ごはんにかけると、白米の隙間にすいすいと浸み込んでいくようなシャバシャバ系。
この日は、エビカレーを食べた。メニューは他にポーク、チキン、ビーフなどがあるが、おおもとのルーは(たぶん)共通している。このお店でしか味わえないような、独特の風味がある。
先ほど「回転率が早い」と書いたが、この日もやはり、注文したらすぐにカレーが出てきた。店員さんは常にきびきびと動き回っており、気がつくやいなや、お水の補充も素早くやってくる。お客さんも、流れるように入れ替わっていく。老舗店ながらシステマチックに感じる店の雰囲気に、いつも目を見張ってしまう。
【②ラドリオ】
本の街として知られる神保町は、古書店と新書店が共存し、出版社もたくさんある。それは明治時代、ここが有数の学生街で、教材の売買が盛んだったから。ちなみに、運動具店やスポーツ用品店がそこかしこにあるのも、学生街の名残りだとか。
さて、本といえば読書、読書といえば喫茶店。そこで、路地裏にある有名喫茶店に立ち寄った。「ラドリオ」という、昭和24年創業の老舗喫茶店。
ラドリオはスペイン語で「レンガ」という意味だそう。あと、ウインナーコーヒー発祥のお店らしい。
古びた雰囲気の中で味わうコーヒーもいいし、リキュールをかけて食べるアイスクリームも暑い日には効く。
【③小宮山書店】
時間に余裕があるときは、小宮山書店に立ち寄ることにしている。
小宮山書店は、アート作品を扱っているお店。アートはそんなに詳しくないけれど、展示販売されている作品は、どれも刺激的で、眺めるだけでも面白い。
小宮山書店では、漫画の原画も売られている。ふと見ると、自分が以前持っていた漫画『世界地図の間』という作品の、横山裕一という作者の原画があった。
キレキレの絵とストーリー性のなさが特徴的で、漫画のような、そうじゃないような雰囲気は嫌いじゃなかった。
また、小宮山書店には、お笑い芸人の野生爆弾くっきーの絵も売られている。くっきーはテレビにもよく出ているから、その作品を目にしたことがある方も多いと思う。
くっきーの作品の一貫した世界観には、密かに好感や憧れを抱いている。きっと、くっきーは今後も「くっきー」としか言いようがない作品を作り続けるにちがいない。その揺るがなさこそ、アートに不可欠な要素だと思う。小宮山書店の店員さんが、くっきーの絵はよく売れていると言っていたが、くっきーの絵を買う人は、そこにある種の信頼を置いているのではないか。
④【三省堂書店神保町本店】
三省堂書店神保町本店が一時閉店となることを知ったのは、店内をうろついているときだった。建物の老朽化のため、5月8日をもって営業を終了し、建替えに入るとのこと(建替えの期間は仮店舗で営業)。そんなことを淡々と言っている店内アナウンスが聞こえてきて、動揺した。一時的とはいえ、神保町のランドマーク的存在がなくなるなんて…。学生の頃からちょくちょく通い、当時暇を持て余して友人とほとんどのコーナーを眺め潰していた、ここが…。
「神保町にありがとう」と言っているルフィとコナン。近くに本社を構える集英社と小学館の二大キャラのコラボ。行きで見かけたときに、「これはめずらしい!」と思って呑気に外観の写真を撮ったのだが、その時はこの「ありがとう」の意味を理解していなかった。
なお、noteにも三省堂書店神保町本店さんのアカウントがあることを知った。創業時の歴史から、現書店員さんのこぼれ話など、たくさんの記事を投稿されている。おすすめです。
5月8日の閉店までに、時間を見つけてもう一度踏み入れようかな、と思う。個人的には、あの薄暗いエスカレーターがなぜか好きだった。
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以上、神保町のおすすめスポットの紹介でした。
「定期的に訪れている」と書いているわりに、詳しい方から見たら、ベタというか、正統派なスポット紹介になってしまったかもしれません。
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三省堂書店本店の一時閉店は、「100年先、200年先に書店という文化を残していくための挑戦」なのだそうです。
昔もいいし、これから先もきっといいはず。三省堂書店本店はじめ、神保町に感謝。