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天狗になる

紅葉を見に、都内近郊の山へ行ってきた。
その山へ行くのは小学校の遠足以来で、約20年ぶりだった。


高尾山だ。都心からは、電車で1時間半くらいで行ける。

京王線の高尾山口駅を降り、お土産屋エリアを抜けてケーブルカー乗り場へ行く。ケーブルカーで山の中腹まで登り、そこから初心者向けコースを歩いて山頂へと向かった。

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高尾山は歩くたびにいろんな表情を見せてくれた。
空が開けた景色の中で、東京の街並みが遠くに見えた。
視界をふさぐような木々の中で、樹齢ウン百年の杉の木がひときわ登山客の注目を集めていた。

なだらかな道。ちょっとしたアップダウン。道なりに歩いていく。
山に登っているときに一時的な下り道に差しかかると、何となく損をしたような、ちょっと解せない気分になるけど、構わず進んでいった。

コースの途中には、薬王院という、立派な佇まいをした仏教寺院がある。
「運開除厄」(右から読む)と書かれた鳥居をくぐり、参拝の列に並んでお参りした。
個人的な見解では、お賽銭を入れて拝礼するときは何も考えずに無心になるほうがよい。具体的な願い事を願って、それがもしも叶わなかった場合、「あの時お願いしたのに…」と勝手な責任を押し付けてしまいがちなので。

このあたりで、だんだんと気になってくるのが、天狗の存在だった。
高尾山にはいたるところに天狗がいた。
どうやら、昔から「天狗の住む山」として、ゆかりがあるらしい。
天狗の銅像。でかい天狗の顔をしたオブジェ。
天狗焼きという人気お菓子。天狗のキーホルダー、マグネット。
今風のゆるキャラ天狗もいた。

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高尾山頂に到着した。
ここでは、マスクをした登山客が各々の山頂での過ごし方を実践していた。
標高「599.15m」と書かれた標柱と記念撮影をする人。
ビニールシートを広げて、ご飯を食べている人。
遠くの景色を眺めている人。
少しでも良い写真を撮ろうとカメラをあれこれいじっている人。
気合いを入れて下山の準備をしている人。
ビール片手に名物のとろろそばを食っている人。
自分は、ソフトクリームが食べたくなった。

山頂に着くまでに、じつはちょっとずつ食べ歩いてきており、ケーブルカーを降りたところでチーズタルトを、その少し歩いた先でゴマ団子を食べた。なので、その続きで甘いものを食べたい口になっていた。

思惑どおり、ソフトクリーム屋で手に入れた。バニラ味。400万円。
自然に囲まれた中で食べたソフトクリームは期待したとおりに美味しかった。

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20年前の小学校の遠足の記憶から、高尾山とはシンプルにただ山でしかない、というイメージしかもっていなかったが、今回登ってみて、なんてバラエティに富み、エンタメ性に満ちたスポットなのだと思い直した。

飽きさせない見所の数々。
行きに乗ったケーブルカーは、急斜面を登り、予想以上に斜めってて無駄に高揚した。
帰りに乗ったリフトも、スリル満点だった。景色がきれいだから写真を撮りたいのだけれど、ガタガタ揺れるのでスマホを落とさないよう緊張した。

それから、人も面白かった。
小さなお子さん。外国人グループ。ワンコ連れ。
のんびりお散歩風もいれば、本格的な登山スタイルの人もいた。
難易度別にさまざまなコースがあるから、どこを歩くかによって、格好や雰囲気が異なるのだけど、そういった面々が山頂で一同に集結している感じがおかしかった。
誰もが一様に楽しそうだった。

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世の中の雰囲気に流されやすい自分にとって、今年の秋は寂しい気分のまま終わるのかなと思っていた。
だけど、こうして高尾山に来て、超然と紅く燃えている紅葉を前にして、やっぱり秋っていいなあと。
心を満たしてくれた。

大袈裟かもしれないけれど、紅葉だけは、人類がどんなことになっても普遍的な美しさを保っていてほしいと思った。

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そういえば、これは余談、というか、ちょっとした自慢話。
20年前の遠足で高尾山に行ったとき、電車が貸し切りになったことがある。

どういうふうにしてそうなったのか、記憶は定かではないが、全車両まるごと、乗客が自分たちの学年(2クラス70人程度)だけのものになったのだ。
駅には停車するも、ドアが開くことなく発車する、という状態が、しばらくの区間、続いた。

「この電車は貸し切りにいたしました」という車掌さんの淡々としたアナウンスが流れて、担任の先生が驚いていた。「こんなことはなかなか経験できないよ、貴重だね」と。どうやら事前に知らされていなかったみたい。

車両のどこに行っても自分たち以外の乗客がいない状況に、クラスのみんなは大はしゃぎだった。男子は意味もなく車両間を行ったり来たりして、女子は普段座れない優先席に座ってニコニコしていた。朗らかな空間の電車になった。

それにしても、平日でラッシュの過ぎていた時間帯だったとはいえ、あの時よく貸し切りになったなーと思う。おおらかな時代だったのだろうか。そう大昔のことではないけど。

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自身が天狗になることで、天狗ビールは完成するのです。

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