舞台『SHAPE』、そして『ひりひりとひとり』
タイトルの演目を2日連続で観ました。連日、違う幻覚を観たというか、これを続けて観たという体験がけっこうおもしろかったので備忘録に。
『SHAPE』はハートフルストーリーで『ひりひり〜』はしんどそう、というのが観る前に抱いていた概ねの印象。
両方楽日に配信があります………両方おもしろかったのでぜひに🙏🙏
並べてみて
め〜〜〜ちゃくちゃ端折ったあらすじは最後に書きました。
見終わったあと、冒頭に書いた『ハートフル』と『しんどい』の印象は逆転しました。
ひとつひとつの感想は細かいところもあるんですけど、この2作を並べておもしろかったのが『肉親の死』、それをどう人間が受け止めるか、ショックなことがあったときに作り出す幻想のこと、周りはその人にどう寄り添えるか、を全然違う形で描いていたこと。
愛していても憎んでいても、一緒に過ごしていた肉親の死ってどうしようもなく複雑な感情が襲ってくる。個人的には抉られる体験があるので、「コンテンツで軽率に人を死なすな……」という思いもあるけど、まあそれは置いておいて。
『ひりひりと〜』は、たしかにつらくてしんどくて、剥き出しの感情がぶつかってきて、でも人が生きるってものすごいエネルギーがあって、舞台の上のキャラクターのエネルギーを受け取って、結果前向きな気持ちで、希望を持って帰ることができた。
『SHAPE』は、途中までハートフルの皮をかぶってて、最後に大きな大きな引っかき傷を残していった。他人の幸せを願うって、救うって、なんて難しいんだ、なんて大それてるんだ、って思考のきっかけを残してくれた。
それぞれ違う形で人への寄り添い方を見せてくれた作品。そもそもわたしの日常ではこんな距離感になる人間はそういないので、やっぱりどこか他人事で俯瞰で見ちゃうところはあるんですけど。
似たようなテーマで全然違う角度から突き刺されて、こんなに考える2日間ってあんまりないよなあと思って、大変興味深い週末を過ごせてよかったです。お芝居、大変におもれ〜〜〜なあって思えた週末でした。
※ほんとにこのあと、盛大なネタバレの蛇足なのでどうか観てない方は観たあとで……でも観るの迷ってる人はぜひ両方並べて観てほしいので読んでもいいです…………(何様だァ)
以下、主観まじりのあらすじとオチと感想です。
舞台『SHAPE』
主人公は小さな町の精神科の診療所で働く、軽度の知的障害を持つ男性。そこに新しい患者としてひとりの女性が入院してくるのがはじまり。女性は過保護な母親の元で所有物のように育てられて、自分のことが人形に見えている。主人公には娘がいて、女性にはその娘も人形に見えてしまいパニックを起こしたが、それを主人公に救われて二人の距離は縮まっていく。
信頼関係ができていたところに、主人公の娘は実は本当にただの人形であることが明かされる。主人公は娘を亡くし、ただの人形が娘に見えていて、主人公を救うために周りの人たちもそれに合わせて人形に話しかけていたのだ。人形だと知っていながら、主人公がそれで幸せなら、と主人公の穏やかな日々を願ってやったこと。真実を主人公に告げてしまった女性は、周りの人にもうこの町を出ていってくれと懇願される。
娘が亡くなってしまったことを思い出し、その幻想とお別れして前に進もうとする主人公。それを後押ししてくれた女性と新しい生活を始めたラストシーン。
……かと思ったら実は女性は主人公を後押ししてもいないし一緒に暮らしてもいない。主人公は娘に代わる、女性の幻想を見ながらふたたび人形と暮らしている、というのが本当のラスト。
みんな主人公のことを想ってした行動なのに、蚊帳の外からは全然救われていないように見える。でも主人公がどう暮らしているのが幸せなことかなんて、主人公にしか分からない。現に娘が見えているときのほうが、その精神は穏やかなのだ。娘を亡くしたことを受け入れるにはその女性の支えが必要だった。でも現実には女性が寄り添ってくれたわけではなかったから、自分でまた幻想を作り出した。でも幻想が隣にいてくれるからパニックにもならないし泣き暮らしているわけでもない。正常って、普通って、大切なひとを救うって、想うってどういうこと? って問いを盛大に投げかけられたような作品でした。
『ひりひりとひとり』
俳優として生活している主人公のもとに突然届いた父親の訃報。父親には昔DVを受けていて、詩作や芝居を通して、その過去からようやく離れて「普通」の人生を歩みはじめている、と意気込んでいた矢先のことだった。主人公の頭のなかにはずっと「音」があった。ぴーちゃんと西郷さんという、分身みたいなキャラクターと頭のなかで対話していた。主人公はそれが自分を「普通じゃない」こととして頭の中から追い出したのに、訃報がきっかけでそのふたりがふたたび現れた。
混乱して、稽古中だった作品の降板を演出家に申し出る。その帰りをずっと待っていたのは、同じく稽古していた賢と夏子。自分に暴力と辛い思い出を残して死んでいった父親に対して、早く死んでくれと思っていたのに「悲しい」という感情が湧いてしまって、混乱は極まり感情の渦がせき止められない主人公。賢と夏子は「普通じゃない」経験の才能を持つ主人公に対して、俳優としては嫉妬を抱くが、それ故になんとか舞台に戻ってほしいと願って行動する。
3人はお互いがお互いに羨ましさを持っていて、それでも一緒に作品を創りたいとか、大事に思う気持ちがそれぞれあって、分からないなりに寄り添って、吐露し合って。お互いの存在が支えになって未来へ歩んでいく。
主人公は生い立ち故の「普通じゃない」ことに生涯悩むんだと思う。「普通じゃない」って、単純に他人に分かってもらえないって思っちゃいそうだし。賢と夏子も「普通」でいることに悩むんだろう、主人公を羨むだろう、俳優として生きている限り。でもそれを、「ひとり」は「ひとり」なんだって受け入れながら、それでも傍にいたり分かろうとしたり、「ひとり」で前に進もうとする3人の物語。