マガジンのカバー画像

逆噴射小説大賞まとめ

17
初回、3回、4回、5回開催分を全掲載してマス。
運営しているクリエイター

#小説

汽笛を止めるな!

汽笛を止めるな!

 個室を二部屋ほど挟んだ先には、強化ケブラーのコートと俺の相棒だった住吉が穴あきチーズになって転がっている。

「お客様、切符を拝見いたします」
 
 カチカチ検札鋏を鳴らす車掌長。
 楽な仕事ではないのはわかりきっていたが、ここでの最悪の事態に俺はいらつき、焦る。
 緩急車は目の前だが、あと数分もすればこの列車を止める機会は失われる。
 俺は腰の銃に手を伸ばすが、弾はもう殆どない、切り札もこいつ

もっとみる
キノコ狩りの夜

キノコ狩りの夜

「おい、コウザ!ドローンは3つとも位置についたか?」

 俺は端末で位置を確認して頷く。

「今日の曲はなんだろうな?」

 親方は、選曲をいつも楽しみにしているが多分最低だと思う。3方向、10キロ先のドローンが爆音でワルキューレの行進を夜の丹沢に響かせる。火曜日のドロオペ選曲センスはいつも悪い──顔も見たこともないけど色々きっと最低なやつだ。

「コウザ、どうだ?」

 俺は防胞子マスクの電源を

もっとみる
多元的虚数連続体(と予想される)Uの悲劇

多元的虚数連続体(と予想される)Uの悲劇

 私Uは、いや私達U’sというべきか。いつも距離感というものを測りかねていた。それは、自動車教習所の仮免許の試験、学友たちのパーソナルスペースへの理解、真剣試合での必中となる間合い、点Pに至るたかし君への追いつくまでの丁度いいスピード。少ししかないようで上げるときりがない。思えば幼年期から箸で里芋をうまくつかめず母によく怒られていたし、あまりにも馴れ馴れしい態度で色んな人に甘えて、連れ攫われる事態

もっとみる

オートマタ:ゴールデン・エイジ

 ぼたり。タール混じりの黒い雨が落ち、甲板の街を濡らす。今日の予定ではもう少しあとから降らせるはずだったかと思ったが……周りの兵士たちも予定外の雨に驚いて雨宿りに屋根の下、建物へと避難する。
私も雨宿りにと手近の人形屋へ入る。扉を閉めると、その音は聞こえなくなった。

「…………お客さんですか?」

奥から出てきた店主が私を見るなり言った。私はただ黙って首を振る。すると店主は私の手に目を落として言

もっとみる
パルプデーモン・チーフ

パルプデーモン・チーフ

「やっぱりミュータントだよ……!」

 編集長はバッサリ。俺の顔に原稿が投げつけられる。

「悪魔とか妖怪は宗教色強すぎるとおもうわぁ。時代受けしない」

「でも」俺は食い下がる。ここで、曲げたら作家の俺はオワリ、ジ・エンドだ。家賃も払えず野垂れ死ぬ。

「敵がミュータントなら何でもできるし、どんな形にでもできるでしょ?わかってんの?触手ウジュウジュ〜!ね?」

「じゃ、じゃあ、ダックスフンドミュ

もっとみる
エレキトリカル・ワークマン

エレキトリカル・ワークマン

俺はアキバで、変わったアイテムがないか物色していた、行きつけの電線屋はすごくDopeなアイテムを揃えているから好きだ。

「オヤジ、これはなんだ?」

金ピカのFケーブルが目にとまる。

「ああ、これかこう使うんだ」

オヤジは店にいた客にケーブルを振るう。近くにいた客はキレイに真っ二つ、圧倒的販促行為!流石、第一種電気工事士!

「いいね!これ100m」

「ありがとうございます!6300円にな

もっとみる
S県創生局スグヤル係日報

S県創生局スグヤル係日報

 BRATATAT!!!

 銃弾が飛び交う中での、係長との面談は憂鬱だ。今月は成果、というものは上がっていないし。だが、S県職員は月一回は面談をしなければならない。係長も月末まで忘れていた。

「まー!正直に話してみなよヤマシタ君?どうですか今年を振り返って?」

「ハイ」

 ニタニタと意地が悪そうな顔している。俺は応戦で精一杯だ!

「睡眠が足りねェんじゃねえの?最近寝てる?」

「ハイ」

もっとみる

キルデスレート666

「ちぇっ!でねーでやんの!」

眼の前のチンピラ悪魔に向けて引き金を引いた、弾は出なかった。よくあることだ。

拳銃はこの街で一番使えない武器だ。包丁くらいにはすぐ手に入るが、手が吹っ飛ばなかっただけ当たり。そんなところだ。

「コイツ、死んデマスゼ兄ィ」舎弟のバリヨンの驚いた声。バリヨンは肌が石でできた、大男の馬鹿だ。弾除けにピッタリのカワイイ奴だ。

「ショック死か?ビビり過ぎだろ」

妙な装

もっとみる

エンジン・オブ・エドリキシミュータント

浦賀沖に現れた、黒塗りの蒸気絡繰巨人は幕府に開国を迫った、集まる野次馬や役人に戦慄が走る!

超蒸気技術の四巨人は野次馬を薙ぎ払った!威嚇的デモストレーションは大成功だ!これをみて、夜の寝付きが悪くなること誰が責められることか?

ペルリ提督はショウグンに、不平等な条約を叩きつけに来たのだ。蒸気巨人から降り立った彼は荘厳な絡繰鎧から蒸気を噴き出し、巨人達のサーチライトで照らされる!まさに、神の降臨

もっとみる

ベイサイド・サンライズラン

息はしなくなったはずが、息が切れる感覚。幽霊のヤマモトは逃げていた。なんとか巻いた追っ手はかなりの数だった。

(なんだってこんなことに!あの坊主!)

ケツモチのナメリカワ和尚へ渡す上前をちょろまかしたのがバレた。バカ悪魔のジェブを信じたのを後悔したが、怒りをぶつけようにもさっき眼の前で木っ端微塵にされた。

虎の威を借りてやりたい放題していたヤマモトは、今や横濱中の霊、生者、ステイサムみたいな

もっとみる

DEVIL AGENTS

違法武装老人ホーム「あったかケアほーむ」前に佇むサキュバスのアルメリヤは、漏れ出る重低音でいつもより酷いブロックノイズにまみれた見た目になっている。

「聞いてたのよりすごくなィ?」声にもひどいノイズがのる。

受けた仕事は騒音問題の解決。ケチな下級悪魔の彼女には、こういった仕事がお似合いだった。

「始めようかなァ、待っててもこなさそうだしィ」

バディのバリヨンはビビりの下級悪魔だ。「イケタラ

もっとみる

CONCRETE CAT

南国特有のハイコントラストの景色とそびえ立つコンクリートの壁。そこがよく見える小屋が俺の職場だった。

「メキシコ国民、壁です!徴収を開始します!」

壁の枝からコンクリートの塊がポンと飛び出して叫ぶ。

DOM!DOM!DOM!

一瞬でコンクリートはゴミクズだ。
木と金属でできた小屋には8連装の機関砲が据え付けてある。俺は定期的にトリガーを引く仕事。ビビってたら徴収されてオワリだ。

壁の内側

もっとみる

もう一回

「だそうとおもっても、でないんだよ?」

何を言っているのか分からないが便所に蹴り破って入ってきたコイツ、俺好みの見た目しているコイツが

「50秒でクソして」

って20秒前にいったのはなんとか覚えている。なんの気まぐれか知らないが一昨日眉毛を剃ったのは完全に失敗だ、目に汗が入って来てしみてしみ

「はやく!50秒終わっちゃうよ!」

単純なことすら考えさせるのを邪魔するな!コイツの甲高いこえが

もっとみる