江川の日
まえがき
江川というのは、プロ野球選手であった人である。素晴らしい選手だった。がドラフトを巡って事件がおきた。まったく公正を欠いた争奪戦で、なんか法律の網の目を縫うみたいな小賢しいことをやって巨人が江川選手を獲得したという事件である。
そんなドラフト制度の公正をどんなに無視しても、巨人ファンが減らないところが日本のプロ野球という世界である、ゆえに私はあまり野球は好きではないが、江川投手はとても好きな選手であった。引退後もわかりやすく独特な解説をしていて野球界を盛り上げている(いた?)が、この江川の日の影響が残り、江川嫌いが野球界に多く、いまだに江川が監督をしないのはそのせいだという人もいる。その内容は、
を参照したい。さて、江川さんの趣味がワインなので、今日はワインについて書こう。
ワイン
ロマネ・コンティというワインはあまりにも有名だ。
時計ならパテック・フィリップみたいな存在だろうか、とても高値のワインである。江川さんはこのワインがすこぶる好きなようなので
これをとりあげてみよう
ロマネ・コンティ
ロマネコンティという名前は、ワイン通の間で畏怖の念を持って語られる存在だ。このワインについて語るなら、まず第一に、その唯一無二の生産地について触れねばならない。
ブルゴーニュ地方ヴォーヌ・ロマネ村に位置するわずか1.8ヘクタールの特級畑は、まさに聖地と呼ぶにふさわしい。この畑の地質は、石灰岩を基盤とし、表土には粘土質が混ざり合う絶妙な構成となっている。この土壌構成こそが、ロマネコンティの比類なき風味を生み出す重要な要素の一つなのだ。
年間生産量はわずか5000〜6000本。世界中のワイン愛好家が渇望するその数の少なさは、まさに凄まじいものがある。だが、この希少性は単なる偶然ではない。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティは、品質を最優先するという揺るぎない哲学を持っているのだ。
味わいについて語るならば、若いヴィンテージでさえも、驚くべき複雑さを見せる。赤い果実の香りに加え、スミレやバラの花の香りが織りなすアロマは圧巻だ。そして10年、20年という熟成を経ると、黒トリュフや腐葉土のような大地の香りが加わり、さらなる深みを増していく。
特筆すべきは、その生産方法だ。化学肥料を使用せず、馬耕による伝統的な農法を守り続けている。これは単なる伝統主義ではない。土壌の活力を最大限に引き出し、ブドウの根を深く伸ばすための、科学的にも理にかなった選択なのだ。
また、13世紀から続く歴史的価値も見逃せない。古代ローマ時代から続くワイン造りの伝統を受け継ぎ、18世紀には所有権を巡って貴族たちが争った逸話は、このワインの価値を如実に物語っている。
現代において、ロマネコンティは投資対象としても注目を集めている。1本100万円を超える価格は、その価値の高さを示す一つの指標に過ぎない。真の価値は、時を超えて受け継がれてきた卓越した品質への飽くなき追求にあるのだ。
このワインは、単なる贅沢品ではない。人類の叡智と自然の恵みが完璧なまでに調和した、芸術品とも呼ぶべき存在なのである。
ここで、ピノ・ノワールというぶどうの品種がでてきた。有名なものを並べておくと、
ワインの原料となるぶどうの品種について
カベルネ・ソーヴィニヨン
「黒ブドウの王」と呼ばれる高貴な品種
ベリー系の香りが特徴
若いワインは酸味と渋味が強く、熟成により旨味が増す
ボルドー左岸の至宝とも呼ばれ、特にメドック地区での栽培が盛んだ。小粒で果皮が厚く、タンニンを豊富に含むため、長期熟成に適している。若いうちは閉じた印象を受けるが、10年以上の熟成により、シガーボックスやスパイス、レザーのような複雑な香りを纏う。シャトー・ラフィット・ロスチャイルドやシャトー・ラトゥールなど、世界最高峰のワインの主要品種として君臨している。
メルロー
フランスで最も栽培面積が広い品種(約11万ヘクタール)
ラズベリーやチェリーを思わせる香り
まろやかで口当たりがよく、果実味が強い
ボルドー右岸の王者であり、サン・テミリオンやポムロールで最高の表現を見せる。カベルネ・ソーヴィニヨンと比べて早熟で、若いうちから楽しめる懐の深さを持つ。シャトー・ペトリュスやシャトー・ラフルール等、右岸の名門が手掛けるワインは驚異的な価格で取引されている。土壌との相性が良く、粘土質の地層で特に素晴らしい結果を残す。
ピノ・ノワール
ブルゴーニュを代表する品種
繊細で優美な味わい
ルビー色の明るい色調が特徴
単一品種でワインを製造することが多い
「赤ワインの女王」と称され、栽培の難しさから「醸造家泣かせの品種」とも呼ばれる。ロマネ・コンティに代表される世界最高峰のワインを生み出す一方で、栽培条件や醸造技術によって品質の差が著しい。完熟時のアロマは圧倒的な官能性を持ち、シルクのような滑らかなタンニンと相まって、他の追随を許さない優美さを持つ。
シラー
コート・デュ・ローヌ原産
ガーネットのような濃い色調
タンニンと酸味が強め
果実味と渋味のバランスが良い
北部ローヌの急斜面で最高の表現を見せ、エルミタージュやコート・ロティの伝説的なワインを生む。胡椒やスパイシーなアロマに加え、熟成により燻製やなめし革の香りを纏う。豪州ではシラーズの名で知られ、より力強い表現となるが、フランスのシラーは優美さと力強さのバランスに秀でている。
グルナッシュ
フランスで2番目に栽培面積が広い(約8.5万ヘクタール)
糖度が高く、アルコール度数の高いワインになりやすい
まろやかな味わいで初心者にも親しみやすい
南仏の太陽を存分に浴びて育つ品種で、シャトーヌフ・デュ・パプの主要品種として名高い。単独での醸造よりも、シラーやムールヴェードルとのブレンドで真価を発揮する。樹齢の古いブドウからは圧倒的な凝縮感を持つワインが生まれ、特にシャトーヌフ・デュ・パプの古樹のグルナッシュは、他の追随を許さない複雑味と深みを湛える。
さて、ロマネ・コンティを巡るピノ・ノワール畑の争奪戦が実はある。
ロマネコンティの所有権を巡る法廷闘争の物語は、特に当時のブルゴーニュ高等法院の判決に関して、極めて興味深い歴史を持っている。
1760年、マダム・ド・ポンパドゥールの親族であるド・ラ・トゥール公爵は、「親族による不動産取り戻し権(ルトレ・リニャジェ)」という古い封建時代の権利を根拠に、複雑な法的手続きを開始した。この権利は、家族の土地が部外者に売却された場合、たとえ数年経過していても、血縁者がその土地を買い戻すことを認めるものだった。
5年に及ぶ審理の末、1765年にブルゴーニュ高等法院は以下の決定的な理由により、ド・ラ・トゥール公爵勝訴の判決を下した
どこか、江川選手の争奪を思い起こす
というのも、ド・ラ・トゥール公爵は金にものを言わせたところがあるからだ。だが長い歴史で見るとフランス高等法院は正しい判決を下したとも言える。
●ド・クロワ公爵の立場を支持する根拠:
占有の原則
当時、既に正当な所有者として畑を管理していた
安定的な経営を行っており、ワインの品質も保たれていた
「現状維持の原則」からすれば、正当な理由なく所有権を移転すべきではない
経営の継続性
既存の栽培方法や醸造技術が確立されていた
働く農民たちとの信頼関係が構築されていた
突然の所有者変更は、ワインの品質に悪影響を及ぼす可能性があった
●ド・ラ・トゥール公爵の立場を支持する根拠:
歴史的権利
14世紀までさかのぼる先祖の権利を主張
当時の封建制度における「親族による不動産取り戻し権」という法的根拠
家族の歴史的つながりの重要性
投資意欲と発展性
破格の購入価格(8万リーブル)を提示
ワインの品質向上への強い意欲
宮廷とのコネクションを活かした販路拡大の可能性
保全への約束
畑の分割禁止
伝統的栽培方法の維持
テロワールの完全性保持
この法的判断は、フランスのワイン法において重要な先例となった。特定のテロワールの価値とその保全の重要性を、初めて公式に認めたのである。
所有権を獲得したド・ラ・トゥール公爵は、直ちにその約束を履行した。領地を「ロマネコンティ」と改名し、自身の貴族称号(コンティ)を歴史的な地名に結びつけた。このブルゴーニュ高等法院の判決は、結果的にワインの歴史にとって有益なものとなり、この比類なきブドウ畑の完全性を保持し、その伝説的な評価の確立に貢献することとなった。
この複雑な法的事例は、18世紀の時点で既に、テロワール、伝統、品質がブルゴーニュのワイン造りの中心的な関心事であったことを完璧に示している。また、特定のテロワールと卓越したワインの品質との関係を公式に認めることで、後の原産地呼称統制(アペラシオン)制度の基礎を築くことにもなったのである。
当時としては論争が多かったし、所有権は勝ち取らなければ保持できないものという結論で奪われていく方に寄り添うとちょっと歯がゆい。しかしロマネ・コンティにしてみればこのほうがよかったのである。
あとがき
長い目で見ると巨人で江川が活躍することは良かったのかしれないと思えるだろうか。それはどうかわからないが卓越した実力が私には小気味よかった
次回は別のブランドのワインをセレクトしてnoteしてみる。