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国際統計デー

まえがき

先日、統計の日という記事を書いたばかりである。
そのときには、統計に対するリテラルを上げるにはというテーマで書いた

それでは、国際統計デーには何を書こうか・・・
4年前のnoteでは

世の中にある誤謬を書いた。
マイナスイオン、大陸移動説、狂牛病をテーマにしてそれがいかなる誤謬であるか説明したが、これを統計学で誤謬が見抜けるかということで書いて見ると面白いのではないか・・・と浮かんで少し調べてみたが、難しかったので、もっと基本的なところからやはり書いてみようと思い直した。
シンプトン・パラドックスというものがあり、それについて書いてみよう。
まぁ結論は母集団が大事ということである。

シンプトンパラドックス

このパラドックスは、イギリスの統計学者エドワードHシンプソンが発表した論文がもとになっている。広めたのはシンプソンではなく、コリンRブライスである。

シンプソンのパラドックスに関する考察と対策

1.序論

シンプソンのパラドックスは、統計学において重要かつ興味深い現象であり、データ解析や意思決定プロセスに重大な影響を与える可能性がある。本論文では、このパラドックスの本質を探り、その影響を最小限に抑えるための方法論を提案する。

2.シンプソンのパラドックスの定義と特徴

シンプソンのパラドックスは、1951年にEdward H. Simpsonによって初めて体系的に記述された統計現象である。このパラドックスは、複数の群で同じ傾向が観察されるにもかかわらず、それらを統合したデータでは逆の傾向が現れる状況を指す。具体的には、変数X、Y、Zがあり、ZのそれぞれのカテゴリーにおいてXとYが正の相関を示すにもかかわらず、全体のデータではXとYが負の相関を示すような状況が生じる。この現象は、データの解釈を誤らせ、誤った結論や意思決定につながる可能性がある。

3.シンプソンのパラドックスの例

3.1 医療分野の例ある研究で、2つの治療法A、Bの効果を比較した。小さな腎石と大きな腎石のそれぞれのグループで治療法Aの方が効果的であったにもかかわらず、全体のデータでは治療法Bの方が効果的に見えるという結果が得られた。これは、治療法Aが大きな腎石に対して多く適用され、治療法Bが小さな腎石に対して多く適用されたことが原因であった。
3.2 教育分野の例
2つの大学の数学の成績を比較する際、理系学部と文系学部それぞれではA大学の方が成績が良かったが、全体ではB大学の方が成績が良く見えるという現象が観察された。これは、B大学の理系学部の学生比率が高かったことが原因であった。
3.3 スポーツ分野の例
野球選手の打率を比較する際、2年連続で選手Aの方が選手Bより打率が高かったにもかかわらず、2年間の合計では選手Bの方が打率が高くなるという現象が見られた。これは、選手Aの1年目の打席数が極端に少なかったことが原因であった。

4.シンプソンのパラドックスを避けるための方法論

4.1 層別解析データを適切な層に分けて分析を行うことで、各層内での真の傾向を把握することが可能となる。層別解析は、交絡因子の影響を制御し、より正確な結論を導き出すのに有効である。
4.2 標準化各群のサンプルサイズの違いを考慮し、標準化された指標を用いることで、公平な比較が可能となる。例えば、年齢調整死亡率などが挙げられる。
4.3 多変量解析複数の変数を同時に考慮できる統計手法を用いることで、より包括的な分析が可能となる。重回帰分析、共分散分析、ロジスティック回帰分析などが有効である。
4.4 グラフィカルモデル因果関係を明示的に表現できるグラフィカルモデルを用いて、変数間の関係を視覚化する。特に、有向非巡回グラフ(DAG)は因果関係の表現に適している。
4.5 交絡因子の調整潜在的な交絡因子を特定し、その影響を統計的に調整する。傾向スコア法や操作変数法などの手法が有効である。
4.6 サンプリング方法の改善層化抽出法などを用いて、各群のサンプルサイズのバランスを取ることで、シンプソンのパラドックスが生じる可能性を低減できる。
4.7 ベイズ推論事前知識を組み込んだベイズ推論を用いることで、より robust な推定が可能となる。特に、階層ベイズモデルは、複雑なデータ構造を扱う際に有効である。

5.シンプソンのパラドックスと因果推論

シンプソンのパラドックスは、単なる統計的現象ではなく、因果推論の観点からも重要な示唆を与える。観察データのみから因果関係を推論することの危険性を示唆しており、適切な因果モデルの構築の重要性を強調している。Pearl (2009) の因果推論の枠組みを用いることで、どの条件付き確率が真の因果効果を表しているかを判断することが可能となる。特に、do演算子を用いた介入の概念は、シンプソンのパラドックスの解釈に新たな視点を提供する。

6.シンプソンのパラドックスの一般化

Blyth (1972) は、シンプソンのパラドックスをより一般的な形で定式化した。彼の定式化によれば、このパラドックスは確率論における単調性の欠如の一例として理解できる。この一般化された視点は、より広範な状況でのパラドックスの発生可能性を示唆している。

7.機械学習とシンプソンのパラドックス

近年の機械学習の発展に伴い、シンプソンのパラドックスは新たな文脈で重要性を増している。特に、公平性を考慮した機械学習アルゴリズムの開発において、このパラドックスは重要な課題となっている。例えば、採用アルゴリズムにおいて、性別ごとに見れば公平な判断をしているにもかかわらず、全体では特定の性別に不利な結果が生じるという状況が考えられる。このような状況を回避するためには、多層的な公平性指標の開発と、因果推論を組み込んだアルゴリズムの設計が必要となる。

8.シンプソンのパラドックスの哲学的含意

シンプソンのパラドックスは、統計的推論の限界と、データ解釈の複雑性を示している。このパラドックスは、科学哲学における還元主義と全体論の議論にも関連しており、部分と全体の関係性をどのように理解すべきかという根本的な問いを提起している。さらに、このパラドックスは、統計的有意性のみに依存することの危険性を示唆しており、効果量や実践的有意性の重要性を強調している。

9.結論

シンプソンのパラドックスは、データ分析と意思決定プロセスにおいて常に注意を払うべき現象である。その回避には、適切な分析手法の選択と、データの構造および背景にある因果メカニズムの理解が不可欠である。本論文で提案した方法論を適切に組み合わせることで、シンプソンのパラドックスを回避し、より信頼性の高い統計的推論を行うことが可能となる。特に、層別解析、多変量解析、因果推論の枠組みの活用が重要である。今後の研究課題としては、機械学習や人工知能の分野におけるシンプソンのパラドックスの影響の詳細な分析、より robust な因果推論手法の開発、そしてビッグデータ時代におけるパラドックスの新たな形態の探索が挙げられる。シンプソンのパラドックスの理解と対策は、データサイエンスの発展と、より信頼性の高い意思決定プロセスの構築に不可欠である。研究者および実務家は、このパラドックスの存在を常に意識し、適切な分析手法を選択することが求められる。

ロバストなもの

ひとことでいえば、堅牢なという意味である。
昨今のコンピュータサイエンスでは、予期せぬ入力や状況でも正常に機能し続ける能力を指す。統計学でいうと、データのばらつきや、外れ値の影響を受けにくい統計手法を指すのである。
上記のシンプソンパラドックスの項でみたように、ロバストな解析手法がこのパラドックスを避けるキーである。

さて具体的に手法に落とすと以下のようになるだろう
・二重ロバスト推定
・感度分析
・操作変数法
・機械学習の利用
・因果ダイアグラム

二重ロバスト推定とは
宝探しのときに2枚の地図を使うようなことである。もちろん2枚ともあっている地図を使うのなら申し分ないのだが、得てしてそうは問屋が下ろさなない。まぁちゃんというと、傾向スコアモデルと回帰モデルの両方を使用する。2つのモデルのうち、どちらかが正しく指定されているのであれば、一致推定量が得られる。具体的には次の手法だ。
傾向スコアの推定→回帰モデルの構築→2つのモデルを組み合わせた場合の推定量を計算する。
この計算のうちに交絡因子の制御が可能なのである。
また、傾向スコアをまずは用いるので、実質的に対象を層別化できる効果がある。これはシンプソンパラドックスに大変効果がある。データを階層グループに分けるのであるから、その分布をみることにより、見かけ上の矛盾を回避することができる。シンプソンパラドックスはつまり全体と部分で違う結果が出てしまうことであり、グループ化して、その大きさや特徴をみてやることで解決する。

感度分析とは
料理に例えるなら、レシピのなかで塩の量を変えたら味がどう変わるのかみてやるのである。結果がどのように変わるか確認しながら分析を進めていく
ことにより、結果がどのくらい信頼できるかわかるのだ。
これによってもシンプソンパラドックスは回避が可能かもしれない。少なくとも直接的には、避けられるものではないけれども、データの構造やパターンをより深く知ることになるので、避けられる可能性は高まり、場合によっては多変量解析にかけるので誤った結論は出にくくなる

操作変数法とは
直接は計測できないものを関係のあるほかのもので測る方法である。

また、機械学習に頼れば、シンプソンパラドックスのようにいびつな推定はしない(はずである)さらに、因果ダイアグラムにより因果関係を明確化することにより、どうして全体はこの傾向であるのか見ることになるので
母集団のいびつな関係はこの過程で露見しやすくなるだろう。
とにかく一つの手法に頼らず複眼的に多くの分析をすることにより
このパラドックスは突破できる。

あとがき

統計の世界は実は楽しくもある。
数秘術に似たような思いもするのだが、酔ってはいけない。
あぶりだされた数値をいかにロバストに検証するかに心を尽くさないといけないが、それもシステムがやはりやること、過度な単純化に警鐘を鳴らす心を持ち続けるというシステムとは相容れない相対化が常に必要である。
過度に疑念を抱くことに注意を払いながら、統計を生活や仕事に活かしていく姿勢が問われる。
シンプソンパラドックスは良き例題になるのかもしれない。
次回は統計がいかに行われるのかの実務の部分を書いてみたい


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